2014年最初の内覧試写は『ハリケーンアワー』(13)でした。
今は亡きポール・ウォーカーの遺作の一つです。
ハリケーン「カトリーナ」の直撃を受けて機能が停止した病院を舞台に、
亡き妻の忘れ形見である生後間もない娘を守るため、
長く孤独な持久戦に身を投じる男ノーラン(ポール・ウォーカー)の物語。
某掲示板あたりだと、
「ポール・ウォーカーが発電器のハンドルを延々と回す話」とネタにされそうですが、
涙なくしては観られない、異色の感動作に仕上がっています。
まずノーランを立て続けに襲うトラブルが理不尽すぎて泣ける。
まず映画開始早々、愛妻を予定より早い出産で亡くしてしまう。
(妻役は『崖っぷちの男』(12)のジェネシス・ロドリゲス)
早産で生まれた子供は保育器に入れられ、最低でも48時間は動かせない。
それなのにハリケーンが病院を直撃して、医師やスタッフが全員避難してしまう。
ほどなくして病院内が停電。
欠陥品なのか劣化しているのか、
保育器の予備電源のバッテリーは、フル充電でも3分しか電力が保たない代物。
そして何とか見つけた発電機は体力的にキツそうな手動式…。
…とまぁこれ以上書いてしまうとネタバレになるので割愛しますが、
本編約90分の間に、次から次へとノーランの身に災難が降りかかるのです。
(何も悪いことをしてないのに…)
「何でこんな目に遭うんだよぉぉぉ!」と言っているかのように、
劇中で憤懣やるかたなしにノーランが叫んだり頭を抱えたりする度に、
本当に気の毒になって、あまりの不憫さに泣けてくるのです。
しかし考えてみれば、
銃の始末をミスって雪崩式に状況が悪くなっていく『ワイルド・バレット』(06)とか、
南アでレンタカーに乗った途端に面倒事に巻き込まれた『逃走車』(12)とか、
ポール・ウォーカー主演のサスペンス映画はこういうシチュエーションが多い。
普段端正な顔をしているだけに、
ドツボにハマって表情が崩れた時の「切羽詰まった感」が実にリアルです。
この映画の場合「予備電源が3分しか保たない」というのがポイントで、
病院内を探索するにしても、
何らかの方法で救難要請を出そうとするしても、
救助を呼ぶため病院の屋上に出るにしても、
3分以内に保育器の場所まで戻って発電機のハンドルを回さないといけないのです。
(しかも映画後半になると、バッテリーが1分50秒くらいしか保たなくなる)
ここに行動範囲の制限と時間的な制約が設定されて、
「果たしてノーランは時間内に保育器のある部屋へ戻ることが出来るのか?」というスリルが生まれてくる。
このギリギリの攻防、結構ハラハラします。
ポール・ウォーカーも決して「不死身のヒーローキャラ」ではないので、
生き残るか、我が子を守って死んでしまうか、
子供を失って自分だけ助かるのか、結末が読みにくいのもスリリングなところです。
そして本作がただ「ポール・ウォーカーが不憫で泣ける」のではなく、
ドラマ作品としても心に訴えかけるものがあると思えるのが、
「父性の目覚め」の過程をかなり丁寧に描いている点です。
映画開始早々にノーランは最愛の妻を亡くしてしまうのですが、
その後すぐに我が子に愛着を持つわけではありません。
担当医に「(奥さんは亡くなられたけど)子供が助かって幸いでした」と声をかけられるも、
妻を失ってショック状態のノーランは、
生まれたばかりの我が子に「君のことを知らない」と言ってしまいます。
「妻が死んでしまうなら、子供なんか欲しくなかった…」と言わんばかりに。
それでもノーランは、喪失を乗り越えて我が子のことを「知ろう」とする。
我が子に”アビゲイル”と亡き妻の名前をつけて(←まずここで泣ける)、
自分たち以外誰もいなくなった病院で、
保育器の中で眠る子供に亡き妻の思い出話を一方的に語っていくうちに、
自分の中に父性が芽生えていく。
そして「自分の命に代えても我が子を守る」と決意するようになる…。
この一連の流れに男泣きです。
そこにノーランと妻のエピソードも回想形式で挿入されて、
ヘタな「感動の実話」系の映画よりも心動かされるドラマになっています。
小さなお子さんのいらっしゃるお父さん、お母さんが観たら泣きますねこれは。
「ポール・ウォーカーの遺作だから、観ていておセンチになったのでは?」
と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、
たぶん彼が亡くなっていなくても(勿論そうあってほしかったですが)、
涙腺を刺激された作品であろう事は間違いないと思います。
監督・脚本のエリック・ハイセラーは、
意外とよく出来ていたプリクエル『遊星からの物体X ファーストコンタクト』(11)や、
後半に異色の展開が待っていた『ファイナル・デッドブリッジ』(11)の脚本を手掛けた人。
脚本家出身監督の作品は佳作が多いのですが、
本作もそのひとつと言えるでしょう。
『逃走車』は90分弱の上映時間の割に中だるみした部分もありましたが、
今回の『ハリケーンアワー』はダレ場なく一気に観られます。
もしポール・ウォーカーが自動車事故で亡くなっていなければ、
本作で俳優として新たな可能性が開けたのかもしれない…。
そう考えると本当に悲しいのですが、
今は亡きポール・ウォーカーの熱演を、
是非ひとりでも多くの方にスクリーンで観て頂きたいと思うのであります。
音楽についてはまた次回。