2001年当時のことを思い出しながら、久々に『メメント』のサントラ盤をじっくり聴いてみた。

『フォロウィング』(98)のリマスター版上映に続いて、今月は『メメント』(00)のリバイバル上映企画もあるそうで、いやはやクリストファー・ノーラン監督の影響力はすごいです。当方『オッペンハイマー』(23)は鑑賞を見送っておりますが…。

『メメント』は当時WOWOWで観ていた映画情報番組「Hollywood Express」で内容を知って、全米興行成績トップ10の圏内にも長い間ランクインしていた記憶があります。確か8位前後に4週くらいランクインしていたような…。インディペンデント映画でこの興行成績は大したものです。大作映画と違って公開劇場数が少ないですからね。
「瞬間的に興行成績ナンバー1に輝いた映画よりも、トップ10圏内に長く留まっている映画のほうが面白い」という自分が信じている法則のようなものがありまして、「だとするとこれは相当面白い映画なんじゃないか?」と思ったのを覚えています。

で、確かサントラ盤は映画本編を劇場で観る前に買ったと思います。
自分はハンス・ジマーやジェリー・ゴールドスミスのサントラもいろいろ買っていますが、新進気鋭の作曲家や、まだ無名の作曲家のサントラも学生時代から好んで買っていました。だからCDショップで『メメント』のサントラ盤を見かけた時も「おっ!」と手が伸びたものです。

しかしそのときの自分は購入を躊躇してしまいました。
なぜならサントラのジャケットに「Music for and inspired by the film」と書いてあったからです。「ひょっとしてこれインスパイア盤なのか?」と思ったのですね。

いまはこういうサントラが少なくなりましたが、インスパイア盤というのは「映画の中では使われていないけど、映画のテーマにあった曲を集めました」的な商魂逞しいコンピレーション盤で、ほぼイメージアルバム的なアイテムです。一番有名なのが『スピード』(94)の歌ものコンピレーション・アルバムではないでしょうか。あのサントラ盤に泣かされたリスナーも多いと聞きます。
だから『メメント』のサントラも「映画で使っていない曲ばかり収録しているのでは? 」と疑心暗鬼になったわけです。”Music from the film”ではなく”Music for the film”という表記でしたし。

で、若き日のワタクシはジャケット裏面を見て収録曲を確認しました。

ロ二・サイズの”Snapshot”やレディオヘッドの”Treefingers”、ビョークの”All is Full of Love”、モービーの”First Cool Hive”、ポール・オークンフォールドの”Amnesia”など、「低予算映画でこの曲は使えないだろう(映画の中で使えそうな場面もなさそう)」という曲がズラリと並んでいる。
これ買うのやめようかな…と思ったものの、デヴィッド・ジュリアンのスコアが11曲収録されていることを確認したうえで、購入を決意したのでした。劇中で使っていない曲は飛ばして聴けばいいやと。

結論から申し上げれば、買ってよかったアルバムでした。

MEMENTO Music for and inspired by the film – amazon

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「ネオン・ノワール調のシンセサウンド+ほのかな和テイスト」で聴かせる『TOKYO VICE』Season 1のサントラ盤(作曲家さんインタビューも実施しました)

ランブリング・レコーズ様のご依頼で、ドラマシリーズ『TOKYO VICE』(22~)の国内盤サントラに音楽解説を書かせて頂きました。スコア作曲はダニー・ベンジ&ソーンダー・ジュリアンズのコンビ。

『TOKYO VICE』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
『TOKYO VICE』オリジナル・サウンドトラック(TOWER RECORDS)

ドラマシリーズに興味がある方には、『オザークへようこそ』(17~22)の作曲家ですと説明すると「ああ、あのドラマの!」となるかもしれません。

Ozark Seasons 1 & 2 (Original Soundtrack) – amazon music

Ozark Seasons 3 & 4 (Original Soundtrack) – amazon music

個人的には『複製された男』(13)のスコア作曲を手掛けた人たちという印象が強いです。ドゥニ・ヴィルヌーヴとのコラボレーションがこれ1作で終わってしまったのが残念でした。ヴィルヌーヴは大作路線にシフトしてヨハン・ヨハンソンやハンス・ジマーと仕事するようになりましたからね…。

Enemy (Original Soundtrack Album) – amazon music

いずれにしても、ベンジ&ジュリアーンズは日本ではまだあまり名前を知られていない作曲家コンビなので、差込解説書できちんと彼らの経歴と『TOKYO VICE』の音楽をご紹介しようと思い、今回は作曲家さんへの独占インタビューを実施しました。

先方は目下『TOKYO VICE』シーズン2のスコア作曲の真っ只中ということで、かなり忙しい状況だったにもかかわらず、ジュリアーンズさんが手の空いたときに快くインタビューに答えてくれました。
当方の質問に丁寧に回答してくれたので、『TOKYO VICE』の音楽のコンセプトがよく分かる内容になっていると思います。ぜひ製品を手に取って頂いて音楽解説にも目を通して頂ければ幸いです。

そんなわけでインタビュー内容については差込解説書でじっくり読んで頂きたいので、当方のブログでは『TOKYO VICE』の音楽の特徴を簡単にご紹介したいと思います。

…と、その前に。

念のため書かせて頂きますが、このサントラ盤はベンジ&ジュリアーンズの劇伴集なので、ドラマの中で使われた歌曲は収録しておりません。「歌モノが入ってると思ってサントラ買ったけど(歌が)入ってなかった」とならないようご注意ください。

これは歌曲集ではなく劇伴集です(大事なことなので2回書きました)。

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幸宏さんのEMI時代のリマスター盤を買い揃えていっています(『LIFETIME, HAPPY TIME 幸福の調子』編)

幸宏さんの「大人の純愛三部作」の「幸福編」にあたる『LIFETIME, HAPPY TIME』の最新リマスター盤を買いました。
今回は紙ジャケでの再発なので、プラケースでリリースになった旧盤のバックインレイは縮小サイズで同梱されていました。

LIFETIME, HAPPY TIME 幸福の調子(SHM-CD限定盤) – amazon
LIFETIME,HAPPY TIME 幸福の調子<限定盤> – TOWER RECORDS

やはり紙ジャケではなくプラケースで発売するべきだったのでは…と思った次第。

当時本屋で立ち読みした音楽雑誌の幸宏さんのインタビューだったかな。「LIFETIME, HAPPY TIME」は全ての曲の歌詞に”幸せ”という言葉を入れるつもりで作ったと仰っていました。
実際、11曲中7曲ぐらいに”幸せ”という言葉が入っている。
名曲「元気ならうれしいね」には”幸せ”という言葉は出てきませんが、”人が言うほど僕は不幸じゃない”や”うれしいね”というフレーズが出てくるので、まあこれも広義の”幸せ”ではないかと。

1992年といえば、その少し前から始まったMTVアンプラグドが話題になり、エリック・クラプトンのアンプラグド・ライブ盤も大ヒットして、音楽シーンで「いま、アコースティックサウンドがトレンディ」というような流れがあった記憶があります。

たぶん、幸宏さんもレコード会社との打ち合わせで「幸宏さんもアコースティック路線でひとつどうですか?」的な話が出たのではないかと思います。
実際、前年のライブ「A NIGHT IN THE NEXT LIFE」はアコースティック感強めのアレンジ/セットリストだったし、1993年にはアコースティック・アレンジによるセルフカヴァー盤「HEART OF HURT」もリリースしていますから。

だから今回の「LIFETIME, HAPPY TIME」も「EGO」や「BROADCAST FROM HEAVEN」の音数多めのサウンドからガラッと変わった感じ。
「A DAY IN THE NEXT LIFE」の時点で既にアコースティック色が出てきていましたが、あのアルバムよりも神経質そうな音が少なくなったという印象を受けました。

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幸宏さんのEMI時代のリマスター盤を買い揃えていっています(『A DAY IN THE NEXT LIFE』編)

幸宏さんの「大人の純愛三部作」の「来世編」にあたる『A DAY IN THE NEXT LIFE』の最新リマスター盤を買いました。

A Day in The Next Life (限定盤)(SHM-CD) – amazon
A DAY IN THE NEXT LIFE<限定盤> SHM-CD (TOWER RECORDS)

このアルバムの旧・初回生産盤は、透明プラケースと透明フィルム、名刺サイズの橙&紫のカードなどを使った信藤三雄氏デザインのユニークなジャケットアートが目を引きましたが、リイシュー盤ではあのデザインが中途半端な形で再現されていて少々ガッカリしました。

製品を手に取ったとき、「これは紙ジャケの表面を透明フィルムにしてあのデザインを再現してくれたのかな?」と一瞬ワクワクしたのですが、何のことはない「単なる印刷」でした。
だから「ひとつとして同じデザインになることはなく、十人十色のデザインが楽しめる」という旧初回盤のデザインコンセプトは今回再現されておりません

一応、旧盤にあった名刺サイズのカラーカードと細長いタイトルロゴの紙は封入されていました。
ちなみに旧盤だとカードの裏にオフィス・インテンツィオの住所が書かれていましたが、今回のリイシュー盤だと裏面は白紙です。

本作以降、幸宏さんのアルバムは透明プラケースの特性をフル活用したジャケットアートになるので、そもそもこのリイシュー企画は紙ジャケではなく、プラケースで実施した方がよかったのではないか…とも思った次第です。

そして気になるリマスターの音質ですが、『BROADCAST FROM HEAVEN』の方は違いがあまり分からなかったものの、『A DAY IN THE NEXT LIFE』は旧盤より音の輪郭がハッキリしたような気がします。全体的に音が前に出ている感じとでも申しましょうか。
ちなみに幸宏さんはこのアルバムの制作当時、プリファブ・スプラウトの『ラングレー・パークからの挨拶状』に影響を受けて、わざわざあの作品を手掛けたエンジニアに頼んだそうです。

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幸宏さんのEMI時代のリマスター盤を買い揃えていっています(『BROADCAST FROM HEAVEN』編)

昨年の暮れに紙ジャケ+SHM-CD仕様でリイシューされた幸宏さんのアルバム『EGO』と同時購入したのが、1990年リリースの『BROADCAST FROM HEAVEN』。いわゆる「大人の純愛三部作」の「天国編」です。

BROADCAST FROM HEAVEN (限定盤)(SHM-CD) – amazon
BROADCAST FROM HEAVEN<限定盤> SHM-CD (TOWER RECORDS)

このアルバムは当時母が買いました。確かテレビの歌番組で「1%の関係」を聴いて「いい曲だったから買った」と言っていたような記憶があります。
既にその時「1%の関係」のシングルが出ていたはずですが、幸宏派YMOリスナーの母は即アルバムを買ってしまったのでした。

このアルバムでも『EGO』同様に繊細かつ神経質そうな音は健在。
違いと言ったらアルバムタイトルのように「天国を連想させる音(編曲)」の楽曲があるということでしょうか。
具体的には「6,000,000,000の天国」と「Forever Bursting Into Flame」の2曲。ゴスペル調のコーラスが加わった「Rehabilitation」もそのカテゴリーに入るかな。
このアレンジの妙は、”Additional Arranger”としてクレジットされている上野耕路氏の手腕によるところも大きいのではないかと。
ビートニクス名義の曲のアレンジには、もうひとりの”Additional Arranger”の鈴木慶一氏が携わっていると思いますが。

このアルバムから、スタッフクレジットでしばらく”All songs arranged & performed by Yukihiro Takahashi”という表記になるので、幸宏さんがどの曲で何の楽器を演奏しているのか分からなくなってしまいました。
『EGO』の時は”Vocals, Keyboards, Percussions & Drums”と明記されていたのですが、もっと漠然とした感じのクレジットになってしまった。まあこのアルバムでもいくつかの曲でドラムを叩いているのではないか…と思います。

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