先日、BANGER!!!でトレント・レズナー&アッティカス・ロスの映画音楽に関するコラムを書きました。
2度目のアカデミー賞受賞なるか!? トレント・レズナー&アッティカス・ロスの映画音楽仕事を振り返る
https://www.banger.jp/movie/55647/
個人的には『この茫漠たる荒野で』(20)のジェームズ・ニュートン・ハワードに作曲賞を獲ってもらいたいのですが、アカデミー賞は「無冠の帝王にはなかなか賞をくれない(例:トーマス・ニューマン)」「一度作曲賞を獲った人にも、割とすぐにまた賞を授与する(例:グスターボ・サンタオラヤ、アレクサンドル・デスプラ)」という傾向があるので、それを考えると今回もトレント・レズナー&アッティカス・ロスが有力かなと思います。
そんなわけで、当方のブログでは字数の都合でBANGER!!!のコラムで書けなかったネタを少し補足させて頂きます。
その1:『ソウルフル・ワールド』と『Mank/マンク』のどちらで作曲賞を受賞するか?
今回レズナーとロスは『ソウルフル・ワールド』(20)と『Mank/マンク』(20)で作曲賞にダブルノミネートされていますが、それじゃあどっちの作品で受賞するか? となると、ワタクシは『ソウルフル・ワールド』ではないかと思います。
『Mank』は全編クラシックなジャズ/オーケストラスコアに仕上がっていて、「シンセ音楽とインダストリアル・ロックの申し子のようなレズナーとロスが、こんな古典的なスコアを作曲するとは…!」という面白さはあるものの、本作のスコアはオーケストラ編曲にコンラッド・ポープ、ビッグバンドジャズの編曲にダン・ヒギンズ、フォックストロットの編曲にティム・ギルという腕利きアレンジャーが複数参加しているので、全て「レズナーとロスの仕事」と評価しきれない一面があるのですね(スコア自体のクオリティはとても高いのですが)。
一方『ソウルフル・ワールド』でレズナーとロスが手掛けた部分の音楽はシンセスコア、ジョン・バティステが手掛けた音楽はジャズと明確に分けられているので、それぞれの仕事がどんな感じなのかが分かり易い。
あと何と言ってもディズニーアニメはアカデミー賞で強いのですね。
『ライオン・キング』(94)のハンス・ジマー、『モンスターズ・インク』(01)と『トイ・ストーリー3』(10)で主題歌賞を獲ったランディ・ニューマン、『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)のマイケル・ジアッキーノなど、「音楽賞を授与するならディズニー作品で」という傾向が強い。
それを考えると、今回はレズナーとロスが『ソウルフル・ワールド』で作曲賞を獲るんじゃないかなと思うのです。
その2:「サウンドトラックアルバム・プロデュース」の仕事って何?というお話
BANGER!!!のコラムでレズナーが『ナチュラル・ボーン・キラーズ』(94)と『ロスト・ハイウェイ』(97)のサウンドトラックアルバムのプロデュースを手掛けたという話を書きましたが、これって具体的にどんな仕事内容なの?という補足。
「サントラのプロデュース=映画で使われた曲の監修」と考えがちですが、この2作品に関してはどうも違うらしい。
「オリバー・ストーン 映画を爆弾に買えた男」(著:ジェームズ・リオーダン/訳:遠藤利国)を読むと、プロデューサーのジェーン・ハンシャーがL7やジェーンズ・アディクション、ディアマンダ・ガラスなどの曲をテープにまとめてストーンに聴かせたと書いてある。
その中からどの曲をどの場面で使うかを選んだのが音楽監督のバド・カーで、映画のサントラ盤を作ることになった時、アルバムに収録する曲の取捨選択をして、どんな構成にするのか(曲順や劇中のセリフ・効果音を入れる音楽演出など)を考えたのが”サウンドトラックアルバム・プロデューサー”のレズナーということになるのでしょう。『ロスト・ハイウェイ』も映画本編で使う曲はリンチ自身が選んでいると思うし。
レズナーがアルバムプロデュースを手掛けた結果、『ナチュラル・ボーン・キラーズ』と『ロスト・ハイウェイ』のサントラは、当時レズナーがInterscope Recordsに設立していたNothing Recordsから発売になったという流れかと思います。
その3:『ドラゴン・タトゥーの女』と『ゴーン・ガール』のサントラを是非じっくり聴いて頂きたい。
「トレント・レズナーの音楽=シンセサウンド」と捉えられがちですが、BANGER!!!のコラムを書くにあたって彼のサントラを改めてじっくりと聴いてみたら、意外と生楽器やアナログな手法を使っているんだなということに気づきました。
コラムでは全然書けなかったけど、一番驚いたのが『パトリオット・デイ』(16)。昔懐かしいテープループの手法を用いていたらしいです。
全編シンセだろうと思っていた『ゴーン・ガール』(13)も、ブックレットをよく読むとダナ・ニウがオーケストレーションを手掛けていて、オケの演奏者のリストが載っている(これは自分もサントラ購入当初に把握していた情報です)。
『ドラゴン・タトゥーの女』(11)も、実はプリペアド・ピアノなんかを使っている。
『ドラゴン・タトゥーの女』はレッド・ツェッペリンの「移民の歌」のカヴァーと、ブライアン・フェリーの「Is Your Love Strong Enough?」のカヴァーの印象が強烈なので、この2曲だけを聴いて満足してしまっているリスナーも結構多いんじゃないかと思うのです。
でもハッキリ言ってそれでは勿体ないので、是非この機会にレズナーとロスが作り上げた、寒々としたサウンドスケープをじっくり聴いて頂きたい。
こういう聴く人を選ぶような実験音楽的なスコアをCD3枚組で発売出来るというのは、ある意味究極の贅沢というか、レズナーのネームバリューのなせる業なのかもしれません。
アカデミー賞作曲賞を受賞した『ソーシャル・ネットワーク』(10)のサントラも、アナログシンセ「スワーマトロン」の音色に注目して聴き直してみるのも一興かと。