先日、BANGER!!!で『ギャング・オブ・アメリカ』(21)の見どころポイントと音楽の紹介記事を書きました。
「殺人組織」を率いた伝説の男!『ギャング・オブ・アメリカ』ハーヴェイ・カイテル82歳の含蓄あふれる名演に慄く
https://www.banger.jp/movie/72445/
普段ならば映画の紹介と音楽の解説は4:6くらいの割合で書くのですが、ワタクシはハーヴェイ・カイテルが大好きなので、今回は個人的な推しのカイテル出演作の話が多めになりました。
学生の頃、「ハーヴェイ・カイテルの出演作にハズレなし」と信じて疑わなかったワタクシは、いろんな映画を観まくったものです。
WOWOWやスターチャンネルの放送作品はもちろん、
ビデオレンタルで観た『バッドデイズ』(97)、
今はなき仙台のシネアートで上映された『スモーク』(95)、
わざわざ恵比寿ガーデンシネマまで観に行った『真夏の出来事』(96)、
大学時代の恩師と物語の解釈を議論した『ルル・オン・ザ・ブリッジ』(98)、
AXNミステリー(だったかな?)で放送されたテレビシリーズ『ニューヨーク1973/LIFE ON MARS』(08)など、どれも思い出深い作品です。
そんなカイテルおじさまも御年82歳。
主演作が日本で劇場公開になるというのはとても貴重なことだし、これを逃したらBANGER!!!でカイテル出演作のコラムを書く機会も訪れないだろうと思い、当方の”カイテリスト”としての矜恃を前面に出して原稿を書かせて頂いた次第です。
カイテルの演技の真骨頂といえば、あの「ファッファッファッ」という独特かつ気風のいい”笑い”と、『レザボア・ドッグス』(91)のラストや『バッド・ルーテナント/刑事とドラッグとキリスト』(92)で見せた、見ているこちらまで苦しくなってくる”魂の泣き(嗚咽)”の演技。『ギャング・オブ・アメリカ』はその二つが観られるというのが素晴らしいのです。
そんなわけで今度は音楽のお話。
スコア作曲は『アイス・ロード』(21)でコアなサントラリスナーの関心を集めたマックス・アルジ。余談ですが『アイス・ロード』は2月16日に日本限定でスコアアルバムがCDプレス盤で発売になります。
オリジナル・サウンドトラック アイス・ロード(TOWER RECORDS)
『アイス・ロード』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
ワタクシ、去年の10月中旬には音楽解説原稿を書き終えていたんですけどね…。諸般の事情で発売日が延び延びになって、今日の今日までお知らせ出来なかったのです。ま、コロナ禍が長引いて海外のレーベルもいろいろ大変なのでしょう。
『ギャング・オブ・アメリカ』は、『アイス・ロード』と同年にアルジが音楽を担当した作品。
こちらはローン・バルフがスコア・プロデューサーとしてクレジットされています。
ただ面白いのは、バルフが携わっていない『アイス・ロード』のほうがリモート・コントロール・プロダクションズ系の曲調になっていて、逆にバルフがスコア・プロデューサーを務めた『ギャング・オブ・アメリカ』のほうがアルジのカラーが出ているような気がするんですよね。
…というのも、どうやらアルジはマイヤー・ランスキーと同じくユダヤ系の人物らしく(名字の語感から何となくそんな気はしてたのですが)、ランスキーという複雑な男にある種のシンパシーを覚えていたのではないかと。
それが顕著に表れているのが、アルバム1曲目の”Lansky”(映画の事実上のメインテーマ)。一般的なギャング映画のテーマ曲とは趣の異なる、ダークな中にも英雄的かつ愛国的な雰囲気を持った曲になっている。
自らを自嘲気味に「汚れた顔の天使」と形容するランスキーにピッタリのテーマ曲です。一部の楽曲でわざわざユダヤ系のシンガーとギタリストを起用しているのも、アルジなりのこだわりなのでしょう。
シンセの音がちょっとヴァンゲリスの『ブレードランナー』(82)や『バウンティ/愛と反乱の航海』(84)っぽい感じのは、エタン・ロッカウェイ監督の意向を汲んだ結果だそうです。
「1981年のランスキーが自身の過去を記者に語って聞かせるのだから、音楽は(40年代や50年代ではなく)80年代のトーンで統一したい」ということらしい。その「80年代のトーン」を象徴しているのが、監督にとっては「ヴァンゲリスの曲」だったと。
ちなみにランスキーの回想パートではジャズっぽい音楽が使われていますが、「フニクリ・フニクラ」を除いて”Courtesy of Extreme Music”とクレジットされているので、おそらく音楽制作会社のミュージック・ライブラリーにある「フェイク懐メロ」音源ではないかと思われます(したがって回想パートのジャズっぽい音楽はサントラ未収録)。
ジャケ写が字だけというおそろしく地味なアルバムですが、アルジの音楽はとても丁寧に作られているので、映画をご覧になって気に入った方はサントラも購入してみてはいかがでしょうか。