Intradaから発売になった『インビジブル』(00)の2枚組エクスパンデッド盤サントラを買いました。スコア作曲はもはや説明不要のジェリー・ゴールドスミス。
Vareseから映画公開当時発売になったサントラ盤は51分くらいでしたが、今回はスコアを全31曲、91分26秒完全収録した上で、別バージョンのスコアを14曲、47分24秒収録。
トータル約140分の大ボリュームでのリリースとなりました。
ゴールドスミスのSFスリラー音楽を思う存分聴ける幸せよ…。
Hollow Man – Expanded Original Motion Picture Soundtrack (TOWER RECORDS)
『インビジブル』はポール・バーホーベンがハリウッド映画界に見切りをつけるきっかけとなった作品でもあり、後年本人も「スタジオの奴隷になった気がした映画」といった旨の発言をしておりました。
その割にはエリザベス・シューと一緒に来日した時は終始ご機嫌だったのを記憶しておりますが、あれは営業用のスマイルというのも考えられますが、たぶん美女(シュー)と一緒で嬉しかったせいなのかもしれません。
でも、ハリウッド時代に『トータル・リコール』(90)、『氷の微笑』(92)、『インビジブル』の3作品で伝説のゴールドスミスに音楽を作曲してもらえたのだから、そういう意味ではクリエイティブ面で不満も多かったハリウッドでも、音楽に関しては幸せな体験が出来た人なのではないかなと思います。
バーホーベンはゴールドスミスを非常にリスペクトしていて、『トータル・リコール』は当初予算の都合でドイツで録音するはずが、現地オーケストラとうまく行かなかったゴールドスミスに直談判され、バーホーベンがロンドンのナショナル・フィルハーモニック管弦楽団との録音にゴーサインを出したという有名な話もありました。
Intrada盤のブックレットを読むと、『インビジブル』もバーホーベンがゴールドスミスの家でメインテーマを聴いて感動したらしいので、ゴールドスミスの音楽に心底惚れ込んでいたことが分かります。
ゴールドスミスのコメンタリーの引用部分を読んでいて興味深かったのが、彼が「最近の映画はオープニングタイトルのあるものが少なくなってきた」と言っていたことでした。
ゴールドスミスにとってオープニングタイトル曲はオペラの序曲のようなものらしい。
『インビジブル』ではオープニングタイトルのシークエンスに2分くらい尺を使っていたから、きっとご本人も達成感があったでしょう。
そして「セバスチャンのテーマ(メインテーマ)」には一種のシンパシーのようなものが込められているのだとか。
ケビン・ベーコン演じるセバスチャンは、「天才だけど倫理観に問題のあるゲスい科学者」というキャラクターでした。しかし「透明化によって精神に悪影響を及ぼす」という副作用があることが劇中でも語られていたわけで、ゴールドスミスは「もともと気性の激しかった男が、実験の副作用で邪悪な存在になってしまった」という悲劇的な側面をしっかり観ていたのでしょう。だからメインテーマの旋律には差し迫った破滅への悲哀が込められている。ゴールドスミスのそういった着眼点というかストーリー分析が面白かった。
ま、それでも映画終盤のエレベーターシャフトでのアクションシーンを盛り上げたスコアの迫力は最高でしたが。エレベーターの上昇・下降をオケで絶妙に表現したサウンドが素晴らしかった。
この時期、スペシャルエディションの輸入盤サントラはお値段が高い(7,000円ちょっとしました…)のが難点ですが、自分にとっては買う価値のあるアルバムでした。