年末年始にムービープラスやBS12で『ジェイソン・ボーン』シリーズ(あるいは『ボーン』シリーズ)が一挙放送がありましたので、それに合わせて映画情報サイト「BANGER!!!」でシリーズの音楽を紹介するコラムを書きました。
続編製作の噂も? 紆余曲折『ボーン』シリーズの音楽世界に迫る! ~『アイデンティティー』からスピンオフまで~ | https://www.banger.jp/movie/108228/
今回はシリーズの番外編『ボーン・レガシー』(12)について補足したいことをいくつか。
正直に書かせて頂きますと、ワタクシ映画館で『ボーン・レガシー』を観た時、途中で寝落ちしました。前日仕事で夜更かししていたせいもあるのですが、何だか演出のテンポが悪いところがあって、アクション映画なのに鑑賞中に緊張感が緩んで睡魔に襲われてしまったんですね…。
マット・デイモンはトニー・ギルロイが書いた『ボーン・アルティメイタム』(07)の初稿の脚本にダメ出しをしたそうですが、そのギルロイが監督・脚本を手掛けた『ボーン・レガシー』がこういう内容となると、「ううむ…」と納得せざるを得ない。ギルロイの『フィクサー』(07)は評価が高かったのに、なぜこうなったのか…と当時は思ったりしたものでした。
だから数年前くらいまでは「ボーン・レガシー=微妙な映画」という認識だったのですが、コロナ禍に『ボーン・レガシー』を以前とは異なる視点から観直してみたら、「これはこれでアリなんじゃないか」と思うようになってきました。
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主人公アーロン・クロスの「薬物投与で無理やり身体能力・精神能力を向上させている」という設定からは「政府機関の人間モルモットにされる人材なんてこんなものなのかもしれない」という使い捨て感、強化人間の悲哀みたいなものが感じられる。そしてジェレミー・レナーはアーロンのような「内面的に何かが欠落した男」を演じるのが巧い役者さんなので、その点に注意して本編を観てみると結構見応えがあるのですね。
『S.W.A.T』(03)や『スタンドアップ』(05)、『ハート・ロッカー』(08)、『ザ・タウン』(10)などで演じたキャラも、倫理観や思慮深さや常識など何らかの要素が欠落していた。そしてレナーのその演技がすごくリアルだった。
今回のアーロンは「軍の入隊試験で徴兵官にIQの数値を水増ししてもらってなんとかパスできた」という一種の”落ちこぼれ”キャラであり、密かに好意を寄せていたらしい女医さん(レイチェル・ワイズ)と微妙に会話がかみ合わず、決めゼリフがいまいちビシッとしないのも、こういう事情ゆえなのかと思うとなんだか切なくなってくる。
そのワイズが演じる女医さんマルタのキャラも、本家シリーズのマリー(フランカ・ポテンテ)やニッキー(ジュリア・スタイルズ)とは違う”脆さ”があっていいなと。研究所の同僚の銃乱射事件にショックを受けて狼狽する姿とか実にリアルでした。最近頻発している銃乱射事件の報道を見ると、あのシーンもリアルで恐ろしくなるという「現実が映画(フィクション)に追いついてしまった」系の嫌な怖さが出てきました。
アクションシーンも本家の『ボーン・スプレマシー』(04)や『ボーン・アルティメイタム』(07)のようにガチャガチャした映像ではないので、画面酔いせず観やすかったりします。終盤のバイクアクションは結構面白かったかなと。
いろんな意味で「普通のアクションスリラー映画」になったので、手堅い仕事に定評のあるジェームズ・ニュートン・ハワード(以下JNH)の音楽が実にしっくりくる。
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JNHはギルロイが監督/脚本を手掛けた『フィクサー』と『デュプリシティ ~スパイは、スパイに噓をつく~』(09)の音楽も担当していて、前者ではアカデミー作曲賞の候補になっています。『デュプリシティ』もジャズ/フュージョン系のスコアで面白い感じだった(個人的にかなり好きなJNHの作品です)。
この時期のJNHのアクションスリラー音楽というと『ソルト』(10)などを手掛けていますが、個人的には『ボーン・レガシー』のサウンドのほうが好きです。
本家シリーズのジョン・パウエルのようなスピード感(BANGER!!!のコラムで書いたところの「推進力」)よりも、リズムやベース音に”重み”を出したサウンドとでも申しましょうか。
当時『ボーン・レガシー』のサントラは輸入盤国内仕様(輸入盤にオビだけつけて国内流通品番にしたもの)で発売になったんじゃなかったかな。自分が買ったのは輸入盤でしたが。