『フランシス・F・コッポラ -終わりなき再編集-』で上映される作品のサントラ盤を集めてみた話 その2:『ハメット』『アウトサイダー』

11月29日からコッポラ作品の4Kレストア版上映企画『フランシス・F・コッポラ-終わりなき再編集-が始まるので、上映作品4タイトルのサントラ盤を集めてみました。

『カンバセーション…盗聴…』(74)
『ワン・フロム・ザ・ハート』(81)
『ハメット』(82)
『アウトサイダー コンプリート・ノベル』(83)

…の4作品。

前回のブログで『カンバセーション』と『ワン・フロム・ザ・ハート』のサントラをご紹介したので、今回は『ハメット』と『アウトサイダー』について書きたいと思います。

『ハメット』

Hammett Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

先日久々にDVDで本編を観たのですが、いま改めて観てもこの作品は「ヴィム・ヴェンダースが撮った映画」というより「製作総指揮のコッポラが撮った映画」という印象を受けました。
ドイツの俊英ヴェンダースをハリウッドに招いて映画を撮らせてはみたものの、コッポラと方向性の違いで揉めて製作現場がゴタゴタしていたとか。

それではこの映画が失敗作かというと、(当時の評価はさておき)個人的には案外そういう感じでもなく、スローテンポで進むドラマ(強いて言えばこのへんがヴェンダース的という気もする)もいい味を出しているし、最近はこういう古典的なノワール映画を作ってくれなくなったので、結構新鮮な気持ちで観られました。

そして何より素晴らしいのがジョン・バリーのジャズ音楽。「クラリネットとピアノ」をメイン楽器に据えたのが実に秀逸なチョイスです。
トランペットをメイン楽器に使うとゴールドスミスの『チャイナタウン』(74)と比較されてしまうし、フレデリック・フォレストが体現したハメットの独特な物腰と雰囲気には木管楽器のほうが合っている気がします。
オーディオでサントラを聴いていると、部屋の奥の方から聞こえてくるようなクラリネットの「奥行きのある音」が実に味わい深くてよい感じです。

DVDの裏面に「サックスの悲しげな音楽」と書かれていますが、メインテーマのことを言っているならこれはサックスではなくクラリネットだと思うんですけどね…。

閑話休題。

後年バリー自身も「『ハメット』の音楽は大好きだった。あれは素晴らしい映画だった。監督がそれを正しくスクリーンに映し出し、親密さが感じられるなら、あれだけシンプルに曲を書いて控えめにオーケストラを組めるのは素晴らしいことだ」と何だか意味深長なコメントをしていたようですし、この後『コットンクラブ』(84)と『ペギー・スーの結婚』(86)でもコッポラとタッグを組んだので、音楽は会心の出来だったのでしょう。

バリーがニューヨークで劇伴のデモを録音して、それをドイツにいたヴェンダースに送ったら、午前3時にバリーに電話してきて「デモテープを何時間も聴いたよ。ファンタスティックだ。ワンダフルだ。グレートだ。これこを私が望んでいた音楽だ」と言ってきたらしいので、ヴェンダースもバリーの曲を気に入っていた模様。

製作におけるゴタゴタがあった作品ではありましたが、ヴェンダースもコッポラもバリーの音楽を気に入っていたというのが救いと言えるでしょう。サントラ盤のブックレットに載っていたライナーノーツによると、バリー自身も1995年にBBCラジオの番組内で「私はいまでもこの映画(=『ハメット』)がとても気に入っている」と発言していたそうなので、『ハメット』の劇伴は会心の出来だったのでしょう。
ちなみに当方はPrometheusからサントラが発売になったときに買いそびれ(というか購入を見送った)、昨年Silva Screen Recordsから再販になった新装版のサントラを買いました。収録曲が7曲増えて、Prometheus盤が収録時間43分だったのに対し、Silva盤は55分くらいになりました。

『アウトサイダー』

The Outsiders Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

コッポラがS.E.ヒントンの小説を映画化した青春ドラマ。
当時サントラがヨーロッパ盤(イタリア盤)しか発売されず、2013年にSilva Screen Recordsから映画公開30周年記念ということで、スティーヴィー・ワンダーが歌う”Stay Gold”をちゃんと収録したサントラ盤がリリースされました。
イタリア盤ではビリー・ヒューズのカヴァー版で”Stay Gold”が収録されていたらしいですが、たぶん権利関係の事情と思われます。で、Silvaの30周年記念盤にはご丁寧にそのビリー・ヒューズのカヴァー版も収録していたという。

ただしこのSilva盤は「スティーヴィー・ワンダーの主題歌とカーマイン・コッポラの劇伴」を収録した劇場公開版のサントラであり、コッポラが再編集したディレクターズ・カット版(コンプリート・ノベル)ではカーマインの劇伴を大幅にカットして、本編で既製曲を大量に使用することにしたため『アウトサイダー コンプリート・ノベル』のサントラとして聴こうとすると「主題歌以外本編で流れない曲ばかりじゃないか!」ということになってしまいます。

したがって『アウトサイダー コンプリート・ノベル』のサントラ(もしくはプレイリスト)を作りたい場合、下記の曲を自前で集めて頂くことになります。

Gloria – Composed and Performed by Van Morrison
Loveless Motel – Performed by R.C. Bannon
Jack Daniels If You Please – Performed by David Allan Coe
Real Wild Child – Performed by Jerry Lee Lewis
Blue Moon – Performed by Elvis Presley
Tomorrow Is a Long Time – Performed by Elvis Presley
Out of Limits – Performed by The Marketts
Mystery Train – Performed by Elvis Presley
We’re Gonna Move – Performed by Elvis Presley
Lend Me Your Comb – Performed by Carl Perkins
Milky White Way – Performed by Elvis Presley
When It Rains It Really Pours – Performed by Elvis Presley
Teen Beat – Performed by Sandy Nelson

コッポラが『アウトサイダー』の再編集にあたって父カーマインの劇伴をばっさりカットしたのは、再編集で劇伴の尺が合わなくなったという事情もあると思いますが、当時カーマインの劇伴が「古くさい」と批評されてしまったところも大きいと思われます。

「古くさい」というのは言葉に棘がありすぎるなという気も致しますが、まあ言われてみれば1980年代に作られた青春映画とは思えない雰囲気があることもまた事実です。物語の舞台が1960年代という事情もあるのだけれども。

ただ、コッポラをこの一件で「父親が作った曲を情け容赦なくカットした非情な息子」とネタ的に弄るのは御門違いだと思います。
コッポラが『アウトサイダー』のサントラに寄せたライナーノーツの中で「彼は「秘密兵器」のような存在でした。私はいつも土壇場で彼のスキルを頼ることができました。彼は素早く、プロフェッショナルで、創作に熱心でした」など最大級の賛辞を贈っていたし、父の劇伴が「古くさい」と批評されていた当時もコッポラは「ちょっと(曲が)分厚いかな」と思ったものの、プレスリーなどの既製曲を入れすぎると劇伴が使えなくなってしまうため、カーマイン気を遣って言い出せなかったという背景もあったそうです。ちなみにキャロル・バラードは『ワイルド・ブラック/少年の黒い馬』(79)で勝手にカーマインの劇伴を1曲カットしたため、それ以降カーマインは二度とバラードと口を利くことがなかったのだとか。ま、そんな光景を目の当りにしたら、いくら息子でも父の作った劇伴をボツにはできませんね…。

カーマインは1991年に亡くなったため、コッポラが『アウトサイダー』の再編集に取りかかった頃にはもう彼のそばにいなかった。そこである種の踏ん切りがついて、劇伴を既製曲と差し替えたということなのかもしれません。

しかし『アウトサイダー』の劇伴が大幅にカットされても、父カーマインの遺した仕事は”Stay Gold”の美しい旋律として映画と共に在り続けるのです。

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