自分は2008年にVareseからリリースになった『マトリックス』(99)のデラックス版スコアアルバムを持っているので、また新しく買う必要もないんじゃないかな…と思ったものの、逡巡の末、結局25周年記念仕様のスコアアルバムも買ってしまいました。
The Matrix (Original Motion Picture Score / 25th Anniversary Expanded Edition) – amazon music
The Matrix (Original Motion Picture Score / 25th Anniversary Expanded Edition) – TOWER RECORDS
アルバムにはドン・デイヴィスの劇伴を全18曲収録。曲数は多いものの、収録時間は44分前後でした。ブックレットはスタッフクレジットとトラックリストだけで、デイヴィスによるセルフライナーノーツや識者による音楽解説もなし。
では一体どのあたりが25周年記念仕様なのかというと、
- Yuko Shimizu書き下ろしのオリジナルアートワーク
- 収録曲はドン・デイヴィス自身が選曲
- 1999年リリースの通常版スコアアルバムよりは収録時間が14分長い
…とまぁこんなところでしょうか。特別仕様の割には価格が安めだったのはそういうわけかと思いました。
Yuko Shimizu女史は浮世絵とアメコミ(グラフィック・ノベル)の折衷的な画風で知られるアーティストのようです。アートワークに力を入れている点と、44分という収録時間から考察すると、今回の『マトリックス』25周年記念盤はアナログレコードでの販売を前提として作られたものと思われます。ま、当方は置き場所と予算の都合上CDで買いましたが。
The Matrix 25th Anniversary Expanded Edition<限定盤: Analog LP> – TOWER RECORDS
せっかくなので『マトリックス』スコア盤リリースの変遷を振り返っていきたいと思います。
『マトリックス』の劇場公開当時はマリリン・マンソンやレイジ・アゲインスト・ザ・マシーン、プロペラヘッズ、ルナティック・カームらの「アガる」テクノやインダストリアル・ロックを収録した歌曲集のサントラ盤をメインに展開していて、レコード店の視聴機に入っていたのも九分九厘ソングコンピ盤のサントラでした。
The Matrix (Original Motion Picture Score) – amazon music
そんな中、Vareseからひっそりとリリースされていたのがドン・デイヴィスの劇伴を収録したスコアアルバムでした(カルチュア・パブリッシャーズから国内盤も出ていた)。
収録時間30分前後で全10曲というコンパクトな内容。「既製曲が流れていたとはいえ、もっと劇伴が流れてたでしょ?」…と当時の自分ですら思ったものの、このアルバム以外デイヴィスの劇伴を聴く手段がないので何度も聴いていました。このときはのちに「拡張盤」が出るだろうとは考えなかった。
The Matrix (Original Motion Picture Score / Deluxe Edition) – amazon music
そして時は流れて2008年。同じくVareseから3,000枚限定でデラックス・エディションのスコアアルバムが発売になりました。
こちらは収録時間76分前後で全30曲収録。「ああ、通常盤に入っていない曲がたくさん入ってる…!この日をどんなに待ち続けたことか…」と歓喜したものです。
The Matrix (The Complete Score) – amazon music
そしてさらに時は流れて2021年。やはりVareseから「コンプリート・エディション」のスコアアルバムが発売になったのでした。「デラックス・エディションは完全盤ではなかったの?」と動揺したものです。コンプリート・エディションはCD2枚組で全44曲、収録時間100分という内容でした。
デラックス・エディションより24分、14曲多いという収録内容に心惹かれたものの、結局自分はコンプリート・エディションの購入を見送ったのでした。デラックス・エディションに強い思い入れがあったのと、当時懐具合がいささか寂しかったので、「デラックス・エディションがあれば『マトリックス』のスコア盤はもういいかな」という気分になったためでした。
それではなぜ今回の25周年記念盤を買ったのかというと、トラックリストを見たらデラックス・エディションに入っていなかった曲を収録しているらしいからでした(曲名から判断)。今回の25周年記念盤の購入で、『マトリックス』のサントラ収集は終了かなという感じです。
今回久々に『マトリックス』のデイヴィスの劇伴を聴きましたが、25年経って聴いてみても異色の劇伴だなと思いました。
通常、この種のブロックバスター映画は「分かり易い(キャッチーな)劇伴」を求められるものですが、ジョン・アダムズやスティーブ・ライヒ、フィリップ・グラスのようなポストモダン/ミニマル系の音楽にインスピレーションを得て曲作りを行ったというから、かなり難解な劇伴ということになります。
デイヴィス曰く「サイバーパンクや日本のアニメ、難解なテーマを内包したこの映画には、”ジョン・ウィリアムズ的”なテーマ曲は全く向かなかった」とのこと。プロデューサーや映画スタジオから「もっと分かり易い音楽にしろ」と劇伴をボツにされなくて本当によかった。確かデイヴィスはスケジュール的に余裕がない環境で曲作りをすることになったらしいので。
まあ一般受けする要素は前述のマンソンやレイジの歌曲が担ってくれたので、歌曲と劇伴で「キャッチーな要素」と「難解な要素」をうまく両立できたとも言えるかもしれません。
しかしこうして『マトリックス』第1作の音楽を改めて聴いたら、『マトリックス レザレクションズ』(21)は観たことを忘れたいな…という気分になったのでした。『レザレクションズ』は観ないほうがよかったのかもしれません。