昨日はホアキン・フェニックス主演の激シブ映画『アンダーカヴァー』(07)を観て参りました。
この作品、邦題がこんな感じなので、『インファナル・アフェア』(02)のようなハードな潜入捜査ものを
期待して観に行った人も多かったようです。でも実は屈折した家族の絆を描いたドラマなんですな。
ま、何しろ監督が『リトル・オデッサ』(94)と『裏切り者』(00)を撮ったジェームズ・グレイなので、
内容もまた推して知るべしというわけです。
ボビー・グルシンスキー(ホアキン・フェニックス)という男は警官の家系に生まれた次男坊なの
だけれども、家業に背を向けて、ナイトクラブのオーナーとして成功したヤクザな男。そんな彼が
クラブに出入りするロシアン・マフィアと警察の抗争に巻き込まれて、父親(ロバート・デュヴァル)や
兄のジョゼフ(マーク・ウォールバーグ)が襲われた事から、人生の岐路に立たされるというお話。
ホアキンはグレイ監督の前作『裏切り者』で、地下鉄修理会社を経営するジェームズ・カーンの
愛娘(シャーリーズ・セロン)と結婚して、「白人のように成功したい」と渇望するラテン系青年役で
鬼気迫る演技を見せていたわけですが、今回もいい芝居を見せてくれるのですよ。
父親や兄と不仲なはずなのに、心のどこかでは繋がっていたいと願っているような物腰とか、
エリート警察官の兄に対してずっとコンプレックスを感じて生きてきたんだろうな、と思わせる
翳りのある佇まいとか、セリフに頼らず表情だけで語ってしまうあたりはさすがだなと。
一方のマーク・ウォールバーグはと申しますと、序盤こそ『ディパーテッド』(06)の時のような血気
盛んなタフガイぶりを見せつけるものの、ロシアン・マフィアに襲われて以降、すっかり死の恐怖に
取り憑かれて覇気がなくなってしまうんですな。この時のウォールバーグの演技がやけにリアルで、
ホアキンが屈強になっていくのと対照的に、彼がどんどん「ヘタレ」になっていく様子はとても哀れ
でした(それだけ真に迫っているという事で)。そりゃ、一度あんな目に遭ったらトラウマになりますわな。
グレイの映画は『リトル・オデッサ』といい『裏切り者』といい、銃弾一発の重み(取りも直さず、
それは人の「死」の重みという事にもなるわけですが)が非常にヘヴィです。『リトル・オデッサ』を
ご覧になった方なら、エドワード・ファーロングが絶命したシーンはかなりショックだったのでは
ないかと思います。
そして本作でも、ガンファイト・シーンや豪雨の中のカーチェイス・シーンではカタルシスと無縁の
ドンヨリとした空気を醸し出しています。この映画を観た後では、とても「スタイリッシュなガン・アク
ション!」なんて形容詞は軽々と使えなくなります。「死の重み」がズシリと伝わる演出というか。
凡庸なリメイクに終わってしまった『ディパーテッド』よりも、ワタクシは本作の方が好きです。
この重暗い雰囲気とか、きれい事とか予定調和な終わり方で片付けない家族の絆の描き方とか。
ちなみに映画の舞台は1988年のNYという事で、ボビーのナイトクラブではブロンディーの”Heart of Glass”
とか”Rapture”、デヴィッド・ボウイの”Let’s Dance”(名曲!)のような当時のパワーポップスが
ガンガン流れます。こういう既製曲で80年代の狂乱を彩りつつ、ヴォイチェック・キラールの陰鬱な
スコアでグルシンスキー一家の悲劇を綴るという「明」と「暗」のコントラストが秀逸です。
サントラ盤も要チェック(クラッシュの”Magnificent 7″は未収録ですが)