ワタクシ映画版『ひつじのショーン』(15)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きましたが、
原稿を書くにあたってアイラン・エシュケリの近作もちゃんと聴いておいた方がいいだろうと思い、
『アリスのままで』(14)のサントラ盤を購入したのでした。
ここ最近忙しかったのでブログに書く機会がなかったのですが、
『アリスのままで』のサントラがなかなかの良盤だったので、
遅ればせながらご紹介させて頂こうかなと思います。
店頭で手にとって最初に「おや?」と思ったのが、
定価が「2,000円+税」というリーズナブルなお値段。
まぁアルバムの収録時間が23分41秒という内容ゆえのお値段なのですが、
この映画はジュリアン・ムーアがアカデミー賞を獲った作品だし、
アルバムの最後にボーカルナンバー(カレン・エルソンの”If I Had A Boat”)も収録しているし、
一般のレコード会社だったら普通のサントラ盤と同じ値段(2,400円+税)で出していたかもしれません。
それなのに収録時間が短いからと低価格でリリースしてくれる、
ランブリング・レコーズさんの心遣いが嬉しいじゃありませんか。
映画音楽/サントラ盤と真摯に向き合ってくれるランブリングさんならではと言えるでしょう。
そして肝心の音楽ですが、
『ひつじのショーン』とも『47RONIN』(13)とも異なる、
ヴァイオリン・ヴィオラ・チェロ・ピアノの編成による室内楽的なスコアでした。
エシュケリさんという作曲家はシンフォニックなスコアを書く人だと思っていましたが、
(『スターダスト』(07)とか『47RONIN』とか)
こういう室内楽風の音楽も巧い人なんですね。
この映画は若年性アルツハイマーを発症した主婦の極めてパーソナルな話なので、
音楽も余計な装飾を省いたミニマルな構成になっているのだと思うのですが、
「ピアノ四重奏」というのがなかなか意味深だなーとワタクシ思うわけです。
というのも、主人公アリスの家は夫と長女・次女・長男の5人家族。
メインテーマのメロディーが「アリスのテーマ」だとするならば、
エシュケリのスコアはメインテーマを変奏させてアリスの”変化”を描いていると同時に、
変わっていくアリスを支える”4人の家族”の姿や彼らの内面を、
前述の”4つの楽器”で繊細に描いているように思えてならないのです。
まぁ恐らくワタクシの深読みのし過ぎではないかとも思いますが、
アルバムを聴けば聴くほど、
「この音楽はこういう意味があるのでは?」と考えずにはいられなくなる、
実に奥の深いサウンドに仕上がっています。
通常こういったサントラだとボーカル曲は未収録のケースも少なくないですが、
本盤にはカレン・エルソンの”If I Had A Boat”(ライル・ラヴェットのカヴァー)が入っているのも嬉しいですね。
エシュケリのスコアと通して聴いても全く違和感のない、
スコアと統一感のあるアレンジのカヴァー曲になっています。
収録時間23分強といっても、
ボリューム的には35分くらいの満足感があるアルバムですね。
先にも述べた通りリーズナブルなお値段になっていますので、
室内楽などが好きな方にはお勧めしたい一枚であります。