エイベックス様からのご依頼で、
『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』(17)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
前回のブログでは、タイトな締切スケジュールの中、
音楽監督のボブ・バダミさんと作曲家のジェフ・ザネリさんのご厚意で、
ご本人にインタビュー出来ましたよ!
…というようなことを書かせて頂きましたが、
今回はワタクシなりに『最後の海賊』の音楽を分析してみようかなと思います。
まず今回のサントラ収録曲は以下の通り。
1. Dead Men Tells No Tales
2. Salazar
3. No Woman Has Ever Handled My Herschel
4. You Speak of the Trident
5. The Devil’s Triangle
6. Shansa
7. Kill the Filthy Pirate, I’ll Wait
8. The Dying Gull
9. El Matador Del Mar
10. Kill the Sparrow
11. She Needs the Sea
12. The Brightest Star in the North
13. I’ve Come With the Butcher’s Bill
14. The Power of the Sea
15. Treasure
16. My Name is Barbossa
17. Beyond My Beloved Horizon
18. He’s a Pirate (Hans Zimmer vs Dimitri Vegas & Like Mike) – Bonus Track
ワタクシ、ライナーノーツを書いている間、
今回のサントラ盤も『生命の泉』(11)の時のように、リミックス曲で収録時間を水増ししたような内容だったらどうしようと心配していたのですが、
本作のサントラはオリジナル・スコア17曲で、ボーナストラックの「彼こそが海賊」のリミックスも1曲だけという内容だったので、
トラックリストを見て心底ホッとした次第です。
収録時間も約75分とボリュームの点でも申し分なし。
で、拙稿の中でザネリさんが語っているとおり、
本作で新たに作曲したテーマ曲というのが、
「カリーナのテーマ」「サラザールのテーマ」「海の神話のテーマ」の3つ。
ヒロインのテーマと悪役のテーマとプラスアルファといった感じです。
これらのメロディーがどこで使われているかは、
トラックリストの曲タイトルを見て頂くと大体お分かり頂けるのではないかと思います。
「サラザールのテーマ」の歪んだサウンドはかなりの迫力です。
そしてザネリさんは1作目の時からずっと『パイレーツ・オブ・カリビアン』の音楽に携わっていたので、
これまでのシリーズのテーマ曲と新しいテーマ曲を自由自在に組み合わせて、
『パイレーツ』の音楽をアップデートさせることに成功しています。
新曲と従来の曲がスムーズに繋がっていて全く違和感がない。
それでいて今まで聴き慣れていた曲がいつもと違う展開を見せるので、
「ザネリさんはジマーさんの曲にこう手を加えたのか!」という新しい発見があって、これがなかなか面白い。
ワタクシがざっと確認しただけでも、
本作で使われている前作までのモティーフは「彼こそが海賊」を筆頭に、
「ジャック・スパロウのテーマ」の特徴的な3つのメロディー、
(分類のためあえて名前をつけるなら”酔いどれジャックのテーマ”、”ジャック行動開始のテーマ”、”凜々しいジャックのテーマ”の3つという感じでしょうか)
「ウィル・ターナーのテーマ」、
「愛のテーマ(=ウィルとエリザベスのテーマ)」、
そして“Hoist The Colours”と“Broadside”のメロディーといった感じです。
“Hoist The Colours (またはWhat Shall We Die For)”は事実上の『ワールド・エンド』(07)のメインテーマだったので、
3作目にしか使われないんだろうな…と思っていたのですが、
まさか『最後の海賊』で再びこのメロディーが聴けるとは思いませんでしたよ…。
しかも「海賊の矜持」を見せるシーンで流れるもんですから、聴いていて胸が熱くなる。
そして胸が熱くなると言えば「ジャック・スパロウのテーマ」の使い方もファン感動モノです。
これまで「酔いどれジャックのテーマ」(『デッドマンズ・チェスト』(07)のサントラ1曲目”Jack Sparrow”の出だしの部分)は、主にジャックのトボケた場面で流れる曲だったわけですが、
今回は若き日のジャックの登場シーンでこの「酔いどれジャックのテーマ」がヒロイックに鳴り響く瞬間がありまして、これが最高にシビれるんですよ!
“キャプテン・ジャック・スパロウ”誕生の瞬間を盛り上げる、本作の名場面の1つではないかと思っております。
ワタクシ「この曲、こんなにカッコいいメロディーになるんだなぁ」と感動した次第です。
この瞬間は是非皆さんにも味わって頂きたい。
(もちろん、サントラにもこの曲は収録されてます)
今回はウィル・ターナーの息子ヘンリーが活躍するということで、
ウィルのテーマは息子に受け継がれた感じになってますね。
そして本作のサントラ盤には収録されていないけれども、
1作目から主に海洋戦の場面で使われている”Broadside(サントラ収録時のタイトルはBarbossa Is Hungry)”も劇中でちゃんと使われてました。
というのもこの”Broadside”は『呪われた海賊たち』(03)の時にザネリさんが作曲した曲でして、
自身もかなりこの曲に思い入れがあるのか、
ブックレットで自分の名前をGeoff “Broadside” Zanelliと記しているほどなのです。
(『パイレーツ』のサントラはHans “Long John” ZimmerやRamin “Salty Dog” Djawadiなどスタッフ全員にアダ名がついているのがお約束)
そういえば今回はバルボッサのテーマ(時々ブラックパール号のテーマとしても使われていたあのメロディー)があまり前面に出てこないな…と思ったのですが、
映画を最後まで観たら「そうか、今回のバルボッサのドラマには違った音楽が用意されていたんですね…!」と納得しました。
そして目頭が熱くなりました。
『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズで涙腺を刺激されたのは今回が初めてでした。
で、今回もエンドタイトルで「彼こそが海賊」が大々的に流れるわけですが、
いわゆる「彼こそが海賊:『最後の海賊』バージョン」は、
17曲目の”Beyond My Beloved Horizon”ですのでお間違いのないように。
(ディミトリ・ヴェガス&ライク・マイクのリミックスは本編未使用のオマケ)
今回の「彼こそが海賊」は途中からカリーナのテーマが入ってきて、
この構成がドラマティックで素晴らしいんだなぁ…。
シリーズの音楽をうまくミックスしたジェフ・ザネリの職人技と、
生来のメロディーメイカーぶりが発揮されたアルバムに仕上がっているのではないかと思います(一応、「彼こそが海賊」の作曲者はジマーさんとザネリさん、クラウス・バデルトの3人の名義になってますし)。
「音楽がハンス・ジマーじゃないから」という理由で購入を躊躇しているそこの貴方、
ザネリさんの音楽はシリーズのファンを裏切りません。
新しくなった『パイレーツ・オブ・カリビアン』の音楽を是非ぜひお楽しみ下さい。
『パイレーツ・オブ・カリビアン/最後の海賊』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ジェフ・ザネリ
レーベル:Walt Disney Records / エイベックス・エンタテインメント
品番:AVCW-63217
発売日:2017/06/28
定価:2,500円+税
※2018年8月25日追記
Walt Disney Recordsのライセンスがエイベックスからユニバーサルミュージックに移ったのに合わせて、過去の『パイレーツ』のサントラもリイシューされるようです。
で、『最後の海賊』もリイシューと。