ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』(18)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽はこれが日本で初めてご紹介することになる(と思われる)、
ベルギー出身の作曲家/ピアニストのイヴ・グルメール。
何だか食通っぽいお名前ですが、
極めてインフォメーションの少ないアーティストで、
ベルギー出身というネタを入手するだけでも相当苦労しました。。
で、まぁこういう場合、
出所の定かではない情報を参考にするよりも、
ご本人にお話を伺った方が確かだろうと思いまして、
今回グルメールさんにインタビューを敢行致しました。
ベルギーといえばフランス語圏だよねぇ、
英語で何とかなるかなぁ…と思ったのですが、
お互いに「英語は難しいよね」と言いながら、
実に和やかなムードでインタビューを行うことが出来ました。
(当方の質問に”Good question!”という有難いお言葉も頂きました)
…というわけで、
音楽のコンセプトについてなどの詳しい話は、
サントラ盤をご購入頂いて、
差し込み解説書の拙稿をご覧頂きたいのですが、
それではあまりにも不親切なので、
今回のブログではざっくりした音楽のご紹介と、
文字数の都合で解説書に書けなかったことなどを書きたいと思います。
この映画について「株の高頻度取引と光ファイバーケーブル埋設工事に全身全霊を傾けた男たちの話」と聞いた時、
『マネー・ショート 華麗なる大逆転』(15)のニコラス・ブリテルのようなエレクトロニカ系の音楽になるのかな、と思いました。
あるいはジェシー・アイゼンバーグが出ているので、『ソーシャル・ネットワーク』(10)のようなシンセ・スコアになるのかな、と考えたりもしました。
ところがグルメールさんが作曲したのは、全編生楽器によるアコースティックなスコアでした。
そしてさらにユニークなのが、ピッツィカートを多用しているところ。
弦をつま弾くパーカッシブ(?)なサウンドが、独特なリズム感を生み出しているんです。
『ハミングバード・プロジェクト』は”我々はスピード社会でどう生きるべきか?”を問う側面を持った映画でもあるので、
この急き立てられるようなサウンドが、「ヴィンセントもアントンもエヴァも、互いに主義主張は違えども、同じスピード社会に囚われた人たちなのです」と示唆しているようで、なかなか奥が深い。
そして特殊奏法は弦のピッツィカートだけでなく、
例えばサックスの即興演奏っぽいフレーズや、
フルートや各種木管楽器の不安定な旋律、
ダブルベースのぶっとい低音、
チェロの現代音楽的な弾き方など、
いろんな楽器で「変わった音」を出しているのですが、
それら全てに何らかの意味があるんですね~。
ライナーノーツに記載のインタビューの中で、
グルメールさんはそれらについて詳しく解説して下さっているのですが。
メロディ的にはアルバム7曲目や13曲目で聴かれる「ヴィンセントのテーマ」が印象的。
生楽器による哀愁のメロディは、コーエン兄弟作品におけるカーター・バーウェルの音楽に通じるものがあるかも。
トラジコメディ的な感覚とでも申しましょうか。
シリアスドラマなのか、スリラーなのか、オフビートコメディなのか、ヒューマンドラマなのか、その境界線が(いい意味で)曖昧な音楽になってます。
もっとも、グルメールさん自身はこの映画をヒューマンドラマと規定していたようですが。
ちなみに先日の『ブレス あの波の向こうへ』(17)と同様に、
こちらもCDプレス盤でリリースされるのは日本だけ。
ジャケ写(ブックレット)も日本独自仕様です。
海外ダウンロード版のジャケ写はバックインレイ部分に使われているので、
曲も含めて「海外版にないものはない!」という内容になってます。
ハリウッドの作曲家では思いつかないようなアイデアが詰まった、
個性的で聴き応えのあるサントラ盤なので、是非お買い求め頂ければと思います。
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち(TOWER RECORDS)
『ハミングバード・プロジェクト 0.001秒の男たち』オリジナル・サウンドトラック
音楽:イヴ・グルメール
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-3337
発売日:2019/09/11
定価:2,400円+税