「刑務所にいるような音」にこだわった『THE INFORMER/三秒間の死角』の音楽

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、
『THE INFORMER/三秒間の死角』(19)のサントラ盤にライナーノーツを書かせて頂きました。
音楽担当はブルック(兄)とブレア(弟)のブレア・ブラザーズ。
あまり聞き覚えのない名前かもしれませんが、
パンクバンド vs. ネオナチ軍団の楽屋籠城スリラー『グリーンルーム』(15)の音楽を担当した兄弟作曲家です。

こちらのサントラ盤は、以前のブログで『ベラのワンダフル・ホーム』(19)、『プライベート・ウォー』(18)とまとめて簡単にご紹介させて頂きましたが、
ライナーノーツを書くとなったら”簡単なレビュー”じゃダメだろうということで、その後じっくり音源を聴きこみました。

サントラ盤を1日4,5回聴いて、
原稿締め切りまで3週間弱あったから、
まあ80回前後は聴いた計算になるでしょうか。

その結果いろんな発見がありまして、
サントラ盤の差込解説書に詳しく書かせて頂きました。

音楽的には「ストリングスとピアノのクラシカルなスコア」と、
「打楽器の音を重ねた音響系スコア」のふたつで構成されているのですが、
注目すべきは後者。

バスドラムや金属系パーカッションがドコドコ鳴っているスコアがあるのですが、
何度か聴いていると「これ楽器じゃないんじゃないか?」という音があることに気付きました。
それじゃあシンセサイザーのサンプリング音源で作った音なのかとも思いましたが、
ブレア・ブラザーズは『グリーンルーム』で様々なフィードバック・サウンドとシンセを駆使したスコアを作曲していたので、
今回も何か凝ったことをやっているんじゃあないかと思ったわけです。

そこでブレア・ブラザーズにインタビュー出来ないかと思って連絡を取ってみたのですが、
幸運なことに弟のウィルが当方の取材に応じてくれまして、曲を作ったご本人に直接話を聞くことが出来ました。

結論から申し上げますと、前述のワタクシの”読み”は当たってました
ウィル曰く「刑務所の中を連想させる音を作りたかった」ということで、
シンセではなく、実際にあんなものやこんなものを叩いたり鳴らしたりして、かなり特殊な環境で音をレコーディングしていました。

その内容についてここで書いてしまうと、
差込解説書の意味がなくなってしまうので、
大変申し訳ございませんがレコーディング過程の詳細はここでは内緒。
国内盤の差込解説書にてご覧頂ければと思います。
この情報を知っているのと知らないのとで、
音楽から受ける印象も相当違ってくるのではないかと思います。

刑務所映画というとヒップホップをガンガン流して”サグ指数”を上げる音楽演出も観られますが、
本作はイギリス・アメリカ・カナダ合作映画ということで、
どことなく作品にヨーロッパ的な翳りがありまして、
劇中音楽も静かに恐ろしい感じで統一されています。
このあたりは『エスコバル 楽園の掟』(14)のアンドレア・ディ・ステファノ監督らしさが出ているな、と思いました。
(何しろ『エスコバル』の音楽担当はマックス・リヒターでしたから)

メジャースタジオ製作の刑務所映画では聴けない実験的な音響系スコアは、一聴の価値ありではないかと。
ストリングスを使ったクラシカルなスコアも、ジョエル・キナマンの悲壮感を漂わせた顔や、妻役のアナ・デ・アルマスの薄幸そうな表情とマッチしていて、なかなかドラマティックでした。

映画の内容については、BANGER!!!のコラムでもう少し詳しく書かせて頂く予定。 いましばらくお待ちください。

THE INFORMER/三秒間の死角(TOWER RECORDS)

『THE INFORMER/三秒間の死角』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ブルック・ブレア&ウィル・ブレア
レーベル:Rambling RECORDS
品番:RBCP-7413
発売日:2019/11/20
定価:2,400円+税

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