ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』(18)のサントラ盤に音楽解説を書かせて頂きました。
音楽担当は『ハウス・オブ・カード 野望の階段』(13~18)で知られるジェフ・ビール。
『ビッグ・リトル・ファーム』の簡単な見どころと音楽の概要については、
先日BANGER!!!コラムでざっくりとご紹介致しました。
“オーガニックな音楽”で綴る、究極の農場ドキュメンタリー!
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』 | BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/29319/ #BANGER
当方のブログでは、ジェフ・ビールについてもっと深く掘り下げていこうかなと思います。
このネタは当初BANGER!!!コラムで使おうかなと思ったのですが、あまりにもマニアックすぎるので、自分のブログで書いた方がいいなと思った次第です。
さてジェフ・ビールの代表作は何かと聞かれたら、やはり前述の『ハウス・オブ・カード』ということになると思うのですが、「そのほかには?」となるとこれがなかなか難しい。
長寿TVシリーズということで『名探偵モンク』(02~09)や『警察署長ジェッシィ・ストーン』シリーズ(05~15)あたりになるのかな。
映画よりもTVシリーズでの作曲活動がメインということもあって、ビールは「多作な割に地味な印象の作曲家」なんですね。
ここ数年はそうでもないのですが、『24 TWENTY FOUR』(01~14)がヒットする前ぐらいまでは、テレビシリーズのサントラ盤と言えばドラマで使われたソングコンピレーション盤がメインで、スコア盤が発売される機会がほとんどなかった。だからビールがテレビシリーズ用にいくら優れたスコアを書き下ろしても、スコア盤が出ないのであまり音楽が注目されなかったんですね。。幸い、『ハウス・オブ・カード』は全シーズンのスコア盤がCD2枚組でリリースされましたが。
ワタクシの場合、初めて聴いたビールのサントラ盤は『ポロック 2人だけのアトリエ』(00)でした。アーロン・コープランド的ともフィリップ・グラス的とも言えるなかなか面白い音楽を作曲していて、地味な作品だったけれども、自分の中でかなり印象に残ったのでした。
映画自体もCSやBSの映画チャンネルでなかなか放送されないし、サントラ盤もひっそりと発売されて気がついたら廃盤になってしまっていたのですが、この映画のメインテーマは結構耳にした方は多いんじゃないかと思います。なぜなら映画の予告編BGMとして一時期頻繁に使われたから。
一番有名なのは『ターミナル』(04)の予告編ですね。『モナリザ・スマイル』(03)の予告編でも使われていた記憶があります。
だから『ポロック』の音楽とは知らずに、さらに言えばあれがビールの音楽とは知らずに、「何だか軽やかな音楽が流れてるね」という感じで無意識のうちに彼の曲を聴いていた映画ファンは多いはずなのです。
ビールは強烈に自身の個性を打ち出していくタイプの作曲家ではない印象ですが、ジャズが音楽のルーツになっていることは確かです(ソロ名義でジャズアルバムもリリースしてますし)。その路線では『ノー・グッド・シングス』(02)の音楽も個人的に好きです。サントラ盤は出てないと思いますが。
ビールはドキュメンタリー映画の音楽も結構担当しているようでして、『不都合な真実2:放置された地球』(17)の音楽も手掛けてました (1作目の音楽はマイケル・ブルックでした)。
今回の『ビッグ・リトル・ファーム』は、「作り手から観客への警鐘」系ドキュメンタリーというよりは、「これを観てちょっと(自然について)考えてみて下さいね」系のドキュメンタリーなので、音楽も柔らかいタッチになっているのがポイントですね。
ひとくちに「ドキュメンタリー作品の音楽」といっても、作り手がどういうメッセージを発信したいのかによって、重い音楽だったり、悲しい音楽だったり、漠とした音楽だったり、耳馴染みのよい音楽だったり、求められる音楽の性質が違ってくるわけですが、『ビッグ・リトル・ファーム』は音楽がソフトなタッチなので、ドキュメンタリー映画に顕著な「作り手から説教されている」雰囲気がないのが実にいい感じです。
サントラ盤の差込解説書で、 スコアに使われた楽器の紹介や、特殊奏法が意味するもの(象徴するもの)について考察しているので、そちらも併せてご覧頂ければと思います。
Jeff Beal – ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方(TOWER RECORDS)
『ビッグ・リトル・ファーム 理想の暮らしのつくり方』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ジェフ・ビール
発売日:2020/02/26
品番:RBCP-3357
価格:2,400円(税抜)