BANGER!!!編集部から「4月はNetflix作品から映画音楽コラムを1タイトルよろしく」とご依頼を頂いたので、 先日『失くした体』(19)のに音楽紹介コラムを書かせて頂きました。
『アメリ』脚本家の小説をアニメ映画化
物言わぬ“手”に感情を吹き込む音楽が秀逸なNetflix『失くした体』 | BANGER!!! https://www.banger.jp/anime/32636/ #BANGER
サントラ盤はランブリング・レコーズさんから発売になっているのですが、ワタクシ本当はサントラ盤のほうの音楽解説も書きたかったんですよね…。
でもその時は『マリッジ・ストーリー』(19)のサントラ盤の音楽解説とBANGER!!!コラム原稿の執筆、
『フォードvsフェラーリ』(19)のBANGER!!!コラム原稿の執筆、
アレクサンドル・デスプラのオペラ鑑賞とデスプラ様のBANGER!!!コラム執筆の締め切りが重なっていて、
泣く泣くお仕事の依頼を断念したのでした(それぞれの仕事については、前述のテキストに当方のブログ記事やBANGER!!!へのリンクを張ってあります)。多少無理してでも依頼を受けたかったのですが、万が一原稿の締め切りに間に合わなかったりしたら先方にご迷惑がかかりますので。。
そんなわけで、「もし自分がサントラ盤の差込解説書に音楽解説を書くことになったら、多分こういうことを書いていただろうなぁ」という感じで『失くした体』のコラム原稿を書かせて頂きました。
『失くした体』の音楽について、ここが重要なんじゃないかなという所はほぼ全部書かせて頂いたので、当方のブログではその補足的なことを少し書かせて頂きます。
さて当方のBANGER!!!コラムの中で、「子どもの頃のナウフェルの夢がピアニストか宇宙飛行士だったのに、作曲家のダン・レヴィは、スコアのメイン楽器にピアノを使うような音楽演出をあえて避けている」といったことを書かせて頂きましたが、まずはそれについての補足です。
『失くした体』の音楽は基本的にシンセサイザー・サウンドで構成されているわけですが、もしかしたらレヴィは、ピアノよりもナウフェルがいじっていたカセットレコーダーのほうに重要性を感じたのかもしれません。
「音を録る」というカセットレコーダーの機能に着目して、サンプリング機能を持ったシンセサイザーをメイン楽器に選んだのかもしれないな、と思ったりするわけです。
それからサントラ盤には4曲のボーカルナンバーが収録されているのですが、これらの歌モノの使い方も興味深かったです。
通常、アニメ映画の中で使われる”歌曲”というと、ミュージカル風の演出が挿入されたり、ミュージックビデオ風の演出が使われたりすることが多いのですが、『失くした体』における”歌曲”は、基本的に「日常生活の中の音楽」という設定なのが「大人向けのアニメだなぁ」と思いました。
“Camter”はナウフェルが車の中で聴いていた曲、
“Sale Soiree”はパーティー会場の店内BGM、
“You’re The One”はミュージックビデオ風の演出…と思いきや、最終的には「ガブリエルがヘッドホンで聴いていた曲」という設定になっていました。
ローラ・カエンの”La Complainte du Soleil”は、ジェレミー・クラパン監督が当初イグルーのシーンで使う予定だったものの、ダン・レヴィがその使い方に違和感を感じて、そのシーンはスコアだけで行くことにしたそうです。結果、この曲はエンドクレジットで使われることになった模様。
あと、サントラ盤に収録されたスコアの中には、劇中のセリフや効果音が入っているものがあるのですが(アルバム9曲目の”Igloo”と10曲目の”Suburban”)、特に”Suburban”のほうは、レヴィがサウンドデザイナーと緊密に作業して作った曲らしいです。
なので、あえてスコアに効果音を入れたままのバージョンをアルバムに収録して、音楽と音響効果の境目が曖昧なサウンドになるようにしたのではないかとも考えられます。
音楽担当のダン・レヴィはエレクトロ・ポップ・デュオ「The Do」で活躍しているアーティストですが、デュオ結成以前に『エンパイア・オブ・ザ・ウルフ』(05)の音楽を作曲していたりするので、「ポップ・ミュージックのアーティスト」である以上に、「音楽家/作曲家」なのではないかなと思います。今後も映画音楽で傑作を生み出してくれそうな予感。