ランブリング・レコーズ様のご依頼で、BBC製作の海洋ドキュメンタリー『ブルー・プラネット』シリーズ(01,17)の日本版サントラ盤に音楽解説を書かせて頂きました。
音楽担当は第1作がジョージ・フェントンで、第2作がハンス・ジマーとジェイコブ・シェイ、デヴィッド・フレミングの三人。
『ブルー・プラネットII』オリジナル・サウンドトラック(amazon)
『ブルー・プラネットII』オリジナル・サウンドトラック(TOWER RECORDS)
順番的には第1作からご紹介すべきなのでしょうけれども、ジマー作品ということで注目度が高そうな第2作のサントラからご紹介させて頂きます。
ジマーさんは2013年にブリーディング・フィンガーズ・ミュージックを設立して以来、ドキュメンタリー番組/映画の音楽も積極的に作曲するようになりました。
「ジマーの音楽制作会社といえばリモート・コントロール・プロダクションズだろ」と思われるでしょうが、ブリーディング・フィンガーズ・ミュージックはRCPともまた少し違う会社です。そのあたりはサントラ盤の差込解説書にざっくり書かせて頂いたので是非ご一読下さい。
レストランとかで例えると、ブリーディング・フィンガーズ・ミュージックは「支配人ハンス・ジマー、総料理長ジェイコブ・シェイ」という感じなのかな。ちょっと違う気もしますが。
さてそのジマーさん&ブリーディング・フィンガーズ・ミュージックの作品は『プラネットアースII』(16)や『Seven Worlds One Planet』(19)などがアルバムリリースされていますが、これらの音楽が”Main Theme by Hans Zimmer / Original Music by Jacob Shea, Jasha Klebe”、あるいは”Theme by Hans Zimmer and Jacob Shea / Score by Jacob Shea”と表記されているのに対して、『ブルー・プラネットII』は”Original Score by Hans Zimmer, Jacob Shea & David Fleming”となっているのがポイント。
つまり「ジマーさんがテーマ曲を作ってあとはお弟子さんに一任」というのではなく、スコア全体の作曲に密接に関わっていると言えるのですね(少なくともクレジット上では)。
だからこの3つはどれも聴きごたえのあるアルバムだけれども、『ブルー・プラネットII』は最もジマーさんのカラーが全面に出た作品とも言える。
実際『ブルー・プラネットII』のサントラを聴いてみると、ネイチャードキュメンタリーのための音楽でありながら、ところどころに『インセプション』(10)や『ラスト サムライ』(03)、『パイレーツ・オブ・カリビアン』シリーズの「ジャック・スパロウのテーマ」を彷彿とさせるフレーズが登場したりして、これが面白い。
創作上でいろいろな制約のある大作映画ではなかなか出来ない、”音楽的な遊び”を組み込んだスコアと言えるのではないかなと。
本作の音楽はウィーンのシンクロン・ステージ・オーケストラによるフルオケスコアとなっており、ジマーさんたちは“水の動き”を表現するため「タイダル・オーケストラ」なるものを編成したそうです。ブックレットにタイダル・オーケストラの英語の解説文が載っていたので、全訳して差込解説書に載せました。(技術的なことが書いてあったので、大学時代の恩師に翻訳をお願いしました)。
タイダル・オーケストラを用いて何をどう表現したかったのかが分かると、『ブルー・プラネットII』の音楽がより奥の深いものになるのではないかなと思います。
本作は海洋ドキュメンタリーのための音楽ですが、スコアの構成は劇映画やドラマシリーズのものに近い感じで、テーマ曲のバリエーションで構成されている。
サントラ収録曲の中でもメインテーマとサブテーマのバリエーションが聴けますが、ドキュメンタリー本編では、ほぼ毎回番組の中でメインテーマのモティーフが流れてました。
「ジマーさんの音楽好きだから興味をそそられるんだけど、これドキュメンタリーシリーズの音楽でしょ?映画のサントラと雰囲気違うんじゃないの?」と思われるリスナーの方もいらっしゃるかもしれません。
ごく私的な感想を述べさせて頂くならば、『ブルー・プラネットII』の音楽は「いつものジマーさん」のノリに限りなく近いと思います。個人的には『DUNE/デューン 砂の惑星』(21)より『ブルー・プラネットII』のほうが聴いていて面白かったような気すらします。
正直な話、ワタクシはドキュメンタリー番組にはそれほど関心がない人なのですが、『ブルー・プラネットII』の音楽は本当によかったし、海の生き物たちの生態も観ていて面白かったです。BBCネイチャードキュメンタリーシリーズのサントラは、毎回ブックレットに載っている写真がキレイでいいですね。ちょっとした写真集的な趣さえあります。
『ブルー・プラネットII』オリジナル・サウンドトラック
音楽:ハンス・ジマー、ジェイコブ・シェイ & デヴィッド・フレミング
発売・販売元:Rambling RECORDS Inc.
品番:RBCP-3246
価格:2,640円(税込)
発売日:2022年02月23日