ヴァンゲリスやプロコル・ハルムのゲイリー・ブルッカーなど、今年も長年愛聴してきたミュージシャンの訃報を聞くことになりましたが、『フラッシュダンス』(83)の主題歌で一世を風靡したアイリーン・キャラもお亡くなりになりました。まだそんなお歳でもないのに…。
「フラッシュダンス」「フェーム」主題歌のアイリーン・キャラさん死去
https://eiga.com/news/20221201/11/
先日twitterにも書きましたが、70年代や80年代に多感な時期を過ごした人(自分も含む)にとっては、本当に2020年代は喪失の時代だなと思います。
本日(2022年12月12日)NHK BSシネマで『フラッシュダンス』の放送がありまして、奇しくもアイリーン・キャラの追悼というタイミングでの放送となってしまいました。
久々に『フラッシュダンス』のサントラを聴いたら、今更ながらに名曲揃いで心を打たれたので、今回のブログで劇中使用曲をざっくり振り返ってみたいと思います。
まずサントラ盤はこちら。
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■音楽担当のジョルジオ・モロダー, フィル・ラモーン, キース・フォーシーについて
プロデューサーのジェリー・ブラッカイマーは既に『アメリカン・ジゴロ』(80)でモロダーと仕事をしていて、『フラッシュダンス』の脚本を読むや否やモロダーに音楽制作を依頼したとのこと。
モロダーは当初あまり乗り気でなく、スコアの作曲は映画を観てから考えると一旦保留して、ひとまず映画に合うデモ曲をブラッカイマーに送ったそうです。そのデモというのが主題歌”Flahdance…What A Feeling”の原型とも言えるものだった。
その後映画のラフカットを観て『フラッシュダンス』の仕事に興味を持ったモロダーは、自身の楽曲でドラムを多く担当しているキース・フォーシーを作詞家として招聘し、本格的な楽曲制作に取り組んだのでした。
音楽プロデューサーのフィル・ラモーンは、本業の楽曲プロデュースだけでなく、どの曲をどの場面に用いるかを決める作業も行いました。ミュージック・スーパーバイザー的な仕事ですね。
ラモーン曰く「すべての曲に居場所があった」ということで、ただMTV的にポップミュージックを垂れ流すのではなく、歌詞の内容やシンガーの歌唱が、使用場面にフィットしたものを使うことにこだわったそうです。
■Flahdance…What A Feeling
当初この曲はブルックリン・ドリームスのジョー・エスポジト(”Lady, Lady, Lady”のシンガー)がデモボーカルを担当していたものの、プロデューサーの「この曲は女性が歌わなければならない」という意向でアイリーン・キャラがボーカルを務めることになったのだとか。
キャラは当初モロダーと仕事をすることに気乗りしなかったようですが(ドナ・サマーの成功と比較されると思ったらしい)、歌だけでなく歌詞も書かせてもらえることになり参加を快諾。エイドリアン・ライン監督にオーディションのシーンを見せてもらい、スクリーニング室からレコーディングスタジオに移動する車の中で、ほとんどの歌詞のフレーズを思いつくほどの入れ込み具合を見せたとのこと。
ちなみにキャラはこの主題歌でアカデミー歌曲賞を受賞(フォーシーと共に作詞を手掛けたのでキャラも受賞対象者)、レコードも大ヒットという栄誉に輝きましたが、主題歌のレコーディングに対して十分な報酬を得ていないとレーベルを提訴した結果、勝訴して賠償金を受け取ったものの音楽業界から敬遠される(=干される)という苦い体験をすることにもなりました。
もしこの一件がなければ、90年代、2000年代も敏腕プロデューサーと組んでコンスタントにヒット曲を生み出していたのだろうと考えると、不憫で仕方がありません。
■He’s A Dream
刺激的なダンスシーンで使われる曲なので、ラモーンはあの場面にセクシャルな雰囲気を持った曲を使いたがったのだとか。その結果、シャンディ・シナモンの色っぽいボーカルのこの曲が選ばれたというわけです。
■Maniac
この曲を使うことにこだわったのは、ラモーンではなく監督のエイドリアン・ラインだったいう話。アップテンポな曲ゆえ「ダンスの原動力になるような曲」だと思ったらしい。初期バージョンは歌詞がほとんどなかったので、急遽ラモーンとマイケル・センベロで歌詞を仕上げたとのこと。
■Manhunt
シャンディの”He’s A Dream”と同様、刺激的なダンスに刺激的な曲をつけたいと考えたラモーンが選んだ曲。のちにラモーン夫人となるカレン・カモン(1984年に結婚)にこの曲を歌わせるよう手配したのは彼の制作アシスタントだそうです。『アメリカン・ジゴロ』の”Call Me”の発展版に聞こえなくもないかなと。ラモーンは2013年、カモンは2020年に亡くなっています。
■Lady, Lady, Lady
先述の”Flahdance…What A Feeling”でデモボーカルを吹き込んだジョー・エスポジトが歌うバラード。
エスポジトはドナ・サマーの”Heaven Knows”や『誘惑』(84)のサントラ収録曲の”Just Imagine (Way Beyond Fear)”、『スカーフェイス』(83)の未使用曲”Success”(先頃発売された2枚組拡張盤サントラで聴けます)のボーカルも務めていて、モロダー作品と何かと縁のあるセッション・シンガーです。
■Imagination
ローラ・ブラニガンはこの映画で自身の曲を2曲使われるという栄誉に輝いております。この曲はフラッシュを多用したダンスシーン(ちょっと視覚的に危険な映像のあの場面)で使われました。
スケート場で流れた”Gloria”は1982年のヒット曲で、この映画のために書き下ろされたものではないのでサントラには未収録ということになのでしょう。ブラニガンは2004年に52歳の若さで亡くなっています。
■Romeo
ジョルジオ・モロダーといえばドナ・サマーとの仕事を忘れてはいけないわけで、サントラにもしっかり収録。
しかしサマーはアルバム「She Works Hard for the Money」のリリースを控えていた関係で、”Romeo”をサントラからシングルカット出来なかったらしいですね。
もしシングルでリリースされていたら”Flahdance…What A Feeling”、”Maniac”に続く、アルバムからの3つめのヒットシングルになっていただろうと言われています。サマーは2012年に亡くなっています。
■Seduce Me Tonight
この曲を歌っているCicle Vとは誰だろうと長年思っていたのですが、ロックバンド「エンジェル」のフランク・ディミノをボーカルに据えたモロダーのセッションバンドだそうです(このバンドにはフォーシーやシルヴェスター・リーヴァイらも参加)。
どこかでディミノのロングインタビュー記事(英語)を読んだのですが、モロダーから「ローリング・ストーンズの”ブラウン・シュガー”を使いたいんだけど、カネがないから自分たちで何か曲を作ろう」と言われてレコーディングしたのだとか。
『フラッシュダンス』が大ヒットするとは思っていなかったので、歌を録音してからはそのことをすっかり忘れていたと言っていました。
ちなみに参加ミュージシャンの大半は、スター不在の低予算映画がこれほどまでに大ヒットするとは全く考えていなかったようです(だからアイリーン・キャラの契約も杜撰だったのかな、と思ったり…)。
■I’ll Be There Where The Heart Is
アレックス(ジェニファー・ビールス)が遂にオーディションを受ける決心をする重要なシーンに、”魂を揺さぶるようなバラード”が必要になって、キム・カーンズに協力を求めて出来上がった曲とのこと。
■Love Theme From Flashdance
アルバム唯一のインスト曲、というかモロダーのスコア。演奏者としてクレジットされているヘレン・セント・ジョンはモロダー作品と縁のあるピアニスト。『スカーフェイス』で”Gina And Elvira’s Theme”を弾いているのもこの方です。
■サントラ未収録曲
前述のローラ・ブラニガンの”Gloria”、
Joan Jett and the Blackheartsの”I Love Rock and Roll”,
The Jimmy Castor Bunch の”It’s Just Begun”に、
“Adagio in G Minor” 、
“Avec la garde montante”がアルバム未収録となっています。
完全版サントラを自作するならこれらの曲を追加する必要がありますね。
『フラッシュダンス』の音楽についてはBANGER!!!でいろいろ書きたかったのですが、その機会に恵まれなかったのでブログで大雑把に書かせて頂きました。雑な構成で申し訳ありません(最近疲れ気味でして…)。
サントラを聴いていてふと思ったのですが、たぶんこういうサントラはもう作られないだろうなという気がしてなりません。時代が変わったからという部分もありますが、今はもう、この映画のような”シンプル”で”ロマンティック”なサクセス・ストーリーが作られなくなってしまったような気がするのです。
映画が観客に「夢を与えてくれる」時代はもう終わりつつあるのかな、と最近つくづく思います。
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