Varese Sarabandeから2,000枚限定でリリースになった『訣別の街』(96)のデラックス・エディション版サントラを買いました。
スコア作曲はジェリー・ゴールドスミス。
先頃X(旧twitter)でチラッと書いたとおり、自分は『エアフォース・ワン』(97)の拡張盤サントラを買いそびれて以来、「1990年代のジェリー・ゴールドスミス作品は拡張盤が出たらとにかく買う」ということにしたので、この作品もその流れで予約注文した次第です。今回の『訣別の街』は当時映画館に行って観ましたし。
City Hall (The Deluxe Edition) Original Motion Picture Soundtrack – TOWER RECORDS
ところが某ショップでオーダーしたところ、製造元でCDに再生不良が見つかったとかでお届け予定日が延び、さらに修正版の商品も本国での配送トラブルで輸送が遅れてお届け予定日がさらに延び、これはもう年内には手に入らないだろうなと半ば諦めておりました。
そうしたところ、何の前触れもなく11月5日の昼間に製品が手元に届きました。
奇しくもその日の夜は阪神タイガースが日本一になった日でありまして、自分にとっていろいろとツイている日になりました。
さて気になるサントラ盤の内容ですが、
映画で使われたバージョンのスコアが16曲、
別バージョンが6曲、
通常盤の音源が12曲の全34曲で収録時間は約74分でした。
1996年に発売になった通常盤の収録時間は30分くらいで「短いなぁ」と思ったし、映画本編の内容も正直微妙な感じだったので、ゴールドスミス作品にもかかわらず、当時サントラ盤の購入を見送ってしまいました。
しかし今回のデラックス版の収録時間を計算してみたところ、”Score Presentation”と銘打たれた映画本編で使われたバージョンのスコアも合計34分くらいだったので、当時のサントラでもスコアの大半を収録していたということになりますね。本編でもっとゴールドスミスのスコアが流れていたような印象があったのですが、短さを感じさせないぐらい音楽に迫力(ボリューム感)があったということなのでしょうか。
曲調としては同時期の『L.A.コンフィデンシャル』(97)の雰囲気に近いです。
ジャズ的なエッセンスを漂わせたオーケストラスコア。
あの映画ほど暴力的なシーンはないのですが(命を落とすキャラはいる)、ティンパニの連打が唸るパーカッシブなスコアとか、男同士の友情を彩る美メロやトランペットのソロのフレーズにゴールドスミスらしさが光ります。
こうしてサントラを聴きながら『訣別の街』という映画を振り返ってみると、自分がまだ若かった当時は「いまひとつ盛り上がりに欠ける内容だったな…」と思いましたが、その後いろいろな政界スリラー映画を観てきた現在になってみると「これはこれで面白い映画だったんじゃないかな」と思うようになりました。市長役のアル・パチーノの演説シーンがこの映画の”売り”でしたが、ドラマ的にはダニー・アイエロが演じる政治家アンセルモが割と重要な役で、演技的な見せ場も多い。アル・パチーノにダニー・アイエロ、マーティン・ランドー、トニー・フランシオサ、デヴィッド・ペイマーといったベテランの演技派が揃った中で、若手のジョン・キューザックは少々食われ気味だった気もします。ブリジット・フォンダはなかなかの好演でした。
最近の政治スリラーは社会派メッセージが強すぎて、「”映画”を見たなぁ」というエンターテインメントとしての満足感が得られなくなっている気がしてきました。
『訣別の街』は一応NY市長とその周辺の”黒い疑惑”を描いた作品ですが、社会派映画というよりもスリラー映画として比重を置いているので、娯楽映画やミステリー小説を読み終わった時のような余韻に浸れるのがよかったのではないかと今になって思います。2015年以降に製作された最近の社会派映画は、作り手側の一方的な主張が強すぎて、なんだか観ていて疲れるところがあるので。
『大統領の陰謀』(76)とか『インサイダー』(99)を観ても、そんな気分にはならずに映画の世界に没入出来るのは、社会派としてのメッセージを提示しつつ「エンターテインメント」としての見せ方のツボをきちんと押さえているからなのかもしれません。あとは”時代性”なんかも作品の方向性に影響しているかもしれませんが。
サントラを聴きながら社会派映画の在り方について考えてしまった一日でした。