BANGER!!!で書いた『ダ・ヴィンチ・コード』『天使と悪魔』『インフェルノ』の音楽コラムの補足

BANGER!!!で『ダ・ヴィンチ・コード』(06)、『天使と悪魔』(09)、『インフェルノ』(16)のハンス・ジマーの音楽に関するコラムを書きました。

「宗教」「科学」そして「地獄」! ミステリーの秋にイッキ観したい『ダ・ヴィンチ・コード』シリーズの音楽世界を濃厚解説 | https://www.banger.jp/movie/106487/ BANGER!!!

この中でも『天使と悪魔』はサントラ盤に音楽解説をぜひ書かせて頂きたいなと思っていたものの、結局その機会は巡ってこなくて、当時ひどく落胆したという苦い思い出がありました。『インフェルノ』に至っては「今回も仕事は回ってこないだろうなぁ…」という気分になっていました(実際回ってこなかった)。

しかしながら、いつ執筆依頼が来てもいいように準備していたネタや情報(当時のジマーさんのインタビュー記事などの記録)はまだ手元に残っていたので、11月のムービープラスでラングドン教授シリーズの一挙放送があることだし、この機会に温存していたネタをBANGER!!!のコラムで大量放出してしまおうと思った次第です。

『ダ・ヴィンチ・コード』のサントラが約68分。『天使と悪魔』が約54分。『インフェルノ』が約71分。2週間くらい毎日シリーズのサントラを聴いていたら、ほかのサントラや洋楽アルバムを全く聴けない状況になってしまいました。でもジマーさんの音楽が大変聴き応えがあるので、「もう飽きたなぁ」とか「そろそろほかのアルバムが聴きたいなぁ」という気分には全くならなかった。それどころか「いや、もう一度じっくり聴いてみるか」という気になったぐらいです。そのぐらい魅力的な音楽だったということですね。

例によって重要なことはBANGER!!!のコラムのほうでほぼ全て書いてしまいましたので、当方のブログではその補足とか、個人的な感想とか、さらに掘り下げた話などをいくつか書かせて頂きたいと思います。

その1:『ダ・ヴィンチ・コード』の補足ネタ

THE DA VINCI CODE – Original Motion Picture Soundtrack (amazon)
THE DA VINCI CODE – Original Motion Picture Soundtrack (amazon music)

ロン・ハワード監督は『バックドラフト』(91)以来15年ぶりに『ダ・ヴィンチ・コード』でハンス・ジマーとタッグを組んだとBANGER!!!のコラムで書かせて頂きました。その間ハワードはジェームズ・ホーナーと仕事することが多かったのですね。
何がきっかけでジマーさんとの再タッグが実現したのかなと思いましたが、どうやら『バックドラフト』のUS版15周年記念DVDの映像特典で製作スタッフのインタビューを入れることになり、当時のことをいろいろ思い出そうとして、ジマーさんがハワード監督に電話したのがきっかけだったようです。

世界中で物議をかもした小説の映画化ということで、ベテランのハワード監督ですら『ダ・ヴィンチ・コード』製作中はナーバスになっていたようですが、ジマーさんの音楽を聴いてかなり安心したらしい。それがコラムで書いた「約27分のミニ組曲」というやつです。
ロン・ハワード監督のためにじっくり腰を据えて書いた曲なので、おそらくジマーさん的にも思い入れがあったのでしょう。サウンドトラックアルバムを制作するにあたって「曲を短く編集したくない。このままにしておきたい」と考えて、短縮せずトラック9から13にわたって組曲を丸ごと収録したと。

ちなみに『ダ・ヴィンチ・コード』のサントラは映画で使われたスコアをそのままの形で収録したタイプのものではなく、各曲それ自体がひとつの組曲のようなスタイルになっているものも多いみたいです。
例えば1曲目の”Dies Mercurii I Martius”は、映画冒頭とルーヴル美術館でラングドンとソフィー(オドレイ・トトゥ)が会話するシーンとクライマックス(ラングドンがクリプテックスを投げるシーン)の3つから構成されている。
こういう内容なので、クラシック音楽のアルバムを聴いているような感覚になるサントラです。
何かのインタビューでジマーさんが「ロマンティックなレベルに引き上げられたミニマリスト音楽」と表現していたのが興味深い。

その2:『天使と悪魔』の補足ネタ

ANGELES & DEMONS – Original Motion Picture Soundtrack (amazon)
ANGELS & DEMONS – Original Motion Picture Soundtrack (amazon music)

『ダ・ヴィンチ・コード』のスコアがハンス・ジマー流のクラシック音楽作品的な雰囲気だったとすると、『天使と悪魔』は”いつものジマーさんの曲”という感じに仕上がってます。やはり電子音(シンセサイザー)の割合が増えたためでしょう。
打ち込みのリズムだけでなく、ライランド・アリソンとサトナム・ラムゴトラがキレのあるパーカッション演奏を聴かせてくれているのもポイント。「打ち込み+生演奏」のリズムで音楽にスピード感が出ている。明らかに前作よりもアクションシーンの音楽が派手になりましたから。

前作で聴かれたメインテーマも当然使っているわけですが、それ以上に”160 BPM”がスコアの中で存在感を示しています。

ハワード監督によると、ジマーさんは宗教象徴学者のラングドン教授に敬意を表して「5音からなる音楽的アンビグラム」をスコアの中に隠したのだとか。
『インセプション』(10)のあたりからコアなリスナーがジマーさんの音楽の”仕掛け”を解き明かそうとする風潮になりましたが、『天使と悪魔』はその前年の映画なので、まだそういう謎解きに挑んだリスナーは少なかった模様。SNSなどで「アンビグラムを解き明かしたぜ!」という投稿は見たことがないので、おそらくまだ誰も解いていないのでしょう。興味のある方はトライしてみるのもよいかもしれません(ちなみに自分は分かりませんでした)。

なおamazon music内でハンス・ジマーのアーティスト名で『天使と悪魔』を検索しても引っかからず、なんでかなと思ったのですが、ジョシュア・ベルが演奏に参加した曲は”ジョシュア・ベル&ハンス・ジマー”名義になっているため、アルバムのアーティスト名が「ハンス・ジマー」にならず「Original Motion Picture Soundtrack」で登録されているせいだったようです。なんて融通のきかない仕様なんだ…。

その3:『インフェルノ』の補足ネタ

INFERNO – Original Motion Picture Soundtrack (amazon)
INFERNO – Original Motion Picture Soundtrack (amazon music)

BANGER!!!のコラムでも書きましたが、『インフェルノ』の音楽は『天使と悪魔』以上に電子音の割合が多めです。同じシリーズでここまで音楽のスタイルが変わるのか、と驚いたものです。


ただ映画本編を観れば分かるように、頭痛と一時的な記憶喪失と身体的な疲労でボロボロのラングドン教授の精神状態と、彼の頭の中で突然フラッシュバックするおぞましい”地獄”の光景、そして誰が敵で誰が味方か分からない中、命を狙われて逃げ続けるという危機的状況を音楽的に表現するなら、強烈な電子音を鳴らすのが最も効果的と言えるでしょう。『インフェルノ』がああいう音楽になったのは必然だったのかもしれません。

で、今回も第1作で登場したメインテーマが使われているのですが、前作でカメルレンゴ(ユアン・マクレガー)が教皇への複雑な思いを語って棺を開けるシーンで流れたモティーフが、今回も物語の転機となる場面で流れるのが結構重要なのではないかと思われます。
個人的にこのモティーフを分析するなら、これは「ヴィラン側のテーマ」というか、「ヴィラン側の複雑な事情」を語る旋律なのかもしれません。


そしてもうひとつ、ピアノのよるシンプルなモティーフの「エリザベスのテーマ」が作曲されているのがポイント。ソリッドなエレクトロニック・スコアに注目が行きがちですが、『インフェルノ』のスコアはキャラクターの内面もかなりきめ細かに描かれている。
自分も今回コラムの原稿を書く時に『インフェルノ』のサントラを何度も何度も聴いて、そのことに気づいた次第です。

ちなみにこのシリーズの音楽はいずれもヴァイオリンとチェロのソロ演奏を使っているのですが、作品ごとに演奏者が違います。

『ダ・ヴィンチ・コード』
 ヴァイオリン:ヒュー・マーシュ
 チェロ:マルティン・ティルマン

『天使と悪魔』
 ヴァイオリン:ジョシュア・ベル
 チェロ:マルティン・ティルマン

『インフェルノ』
 ヴァイオリン:アレクセイ・イグデスマン
 チェロ:トリスタン・シュルツ

あと追加音楽としてクレジットされているジマー一派(リモート・コントロール・プロダクションズ)の作曲家さんの顔ぶれも異なる。

『ダ・ヴィンチ・コード』
 ローン・バルフ
 ニック・グレニー=スミス
 ヘンリー・ジャックマン(3人とも”Score Arranged by”のクレジット)

『天使と悪魔』
 ローン・バルフ
 アトリ・オーヴァーソン

『インフェルノ』
 スティーヴ・マッツァーロ
 アンドリュー・カウィンスキー
 リチャード・ハーヴェイ

こうしてジマー一派の顔ぶれの変遷を見ると、シリーズ10年の長い年月を実感出来ます。
(ローン・バルフなんて今や売れっ子の大物ですからね…)

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