年末年始にムービープラスやBS12で『ジェイソン・ボーン』シリーズ(あるいは『ボーン』シリーズ)が一挙放送されるので、それに合わせて映画情報サイト「BANGER!!!」でシリーズの音楽を紹介するコラムを書きました。
続編製作の噂も? 紆余曲折『ボーン』シリーズの音楽世界に迫る! ~『アイデンティティー』からスピンオフまで~ | https://www.banger.jp/movie/108228/
自分は以前『ボーン・アルティメイタム』(07)と『ジェイソン・ボーン』(16)のサントラ盤に音楽解説を書かせて頂いたし、特に後者でシリーズの音楽を簡単に振り返るような内容の解説を書いたので、その原稿を基にしてコラムを書けば楽になるかな…と思ったのでした。
まあ実際は映画本編をしっかり観直して、音源もじっくり聴き込んで原稿を書いたので、全然楽な仕事にはならなかったのですが。
…というわけで、例によってブログではBANGER!!!で書けなかったネタを補足していきたいと思います。
長くなりそうなので4回くらいに分けます。まずは『ボーン・アイデンティティー』(02)から。
「ダグ・リーマンがアクション映画を撮る」ということの意外性
BANGER!!!のコラムでも書きましたが、ダグ・リーマン監督は『スウィンガーズ』(96)と『go』(99)で注目された人です。
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『スウィンガーズ』は「カクテル族」と呼ばれる若者(ラウンジミュージックが流れる粋なバーやクラブをハシゴして遊ぶ人たち)の日常を描いた青春コメディ。
Go: Music From The Motion Picture – amazon
『go』はレイヴカルチャーにドップリ浸かった若者たちの騒動を描く青春群像コメディ。どう考えてもアクション映画のイメージがなかった。ましてやどちらも低予算映画。『ボーン・アイデンティティー』を撮るときにリーマン監督とスタジオの間で軋轢が生じたのも、インディペンデント映画とメジャースタジオの大作映画では仕事の進め方(撮り方)が全く違うので、双方で意見が食い違うことが多々あったためと思われます。
音楽に関しても、どちらも既成曲のコンピレーションで構成されていたから、リーマンが『ボーン・アイデンティティー』を撮ると聞いて「ロックやテクノがガンガン流れる作風になるんじゃないか」と思ったものです。
カーチェイスのシーンでポール・オークンフォールドの”Ready Steady Go”を使ったり、エンディングテーマにMOBYの”Extreme Ways”を使ったりしたのはリーマン監督の趣味だったのではないかなと思います。
革新的だったジョン・パウエルの音楽
カーター・バーウェルの音楽がボツになって、新たにジョン・パウエルが『ボーン・アイデンティティー』の音楽担当雇われたというのはBANGER!!!のコラムに書いたとおり。なぜバーウェルの音楽がボツになったのかは、次の3つの理由が考えられます。
- 理由1: 再撮影&再編集で当初作った曲と映像の尺が合わなくなった
- 理由2: リーマン監督がバーウェルの音楽を気に入らなかった
- 理由3: 作曲時期が2001年のアメリカ同時多発テロの頃だったので、家族としてはバーウェルになるべく家にいてほしかった(=スコアの作り直しに消極的だった)
…などいろいろ考えられますが、パウエル自身が米国メディアのインタビューで「ダグはバーウェルの音楽が気に入らなかったようだ」と言っていたので、まあそういうことなのだと思います。ただ、その理由の一つに「お互いのコミュニケーションが不足していたようだ」とも言っていたので、理由3の要因もありそうです。結局のところ、3つの理由が全部絡んでいるのではないかという気がします。
パウエルは追加の予算も作曲スケジュールも限られた中で『ボーン・アイデンティティー』のスコア作曲に取り組むことになったわけですが、皮肉にもこれがよい方向に作用した。
どうもパウエルは『フェイス/オフ』(97)のスコア作曲で編集技師やプロデューサーから「ハンス・ジマーみたいな曲を書いてほしい」とリクエストされていたので、自分らしさを出した曲が書けなかったようなのです。もう何年も前のパウエルのインタビュー記事でそのようなコメントをしていました。
その点、リーマンは当時のパウエルとジマーの繋がり(=「メディア・ベンチャーズ(現リモート・コントロール・プロダクションズ)」の仲間)を全く知らずに雇ったそうなので、この映画では「自分らしさ」を出したスコアを書けたのでした。そういう意味ではやりがいのある仕事だったのでしょう。そしてあの『ジェイソン・ボーン』シリーズを象徴するパーカッシブなスコアが誕生したというわけです。
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その後リーマンとパウエルのコラボは『Mr. & Mrs.スミス』(05)、『ジャンパー』(08)、『フェア・ゲーム』(10)と続き、『ロックダウン』(21)で久々に再びタッグを組んだのでした。