年末年始にムービープラスやBS12、WOWOWなどで『ジェイソン・ボーン』シリーズ(あるいは『ボーン』シリーズ)の一挙放送があったので、それに合わせて映画情報サイト「BANGER!!!」でシリーズの音楽を紹介するコラムを書きました。
続編製作の噂も? 紆余曲折『ボーン』シリーズの音楽世界に迫る! ~『アイデンティティー』からスピンオフまで~ | https://www.banger.jp/movie/108228/
今回は『ジェイソン・ボーン』(16)について…なのですが、BANGER!!!のコラムで重要なことはほとんど書いてしまったし、それ以前にサントラ盤の差込解説書でもいろいろ書いていたので、ブログでは簡単に補足する程度にさせて頂きます。
JASON BOURNE Original Motion Picture Soundtrack – amazon
『ボーン・アルティメイタム』(07)で一応シリーズ完結ということになっていたし、スピンオフの『ボーン・レガシー』(12)もシリーズ継続にゴーサインを出すには微妙な興行成績だったので、もう続編はないかなと思っていました。
もしかしたら「やっぱりスピンオフじゃなくて本家の続編を作らなきゃダメだ」みたいな判断で続編を作るかもしれないけれども、アニメ映画の作曲中心にシフトしたジョン・パウエルが復帰するかどうかは微妙な線だろうなとも考えておりました。ポール・グリーングラス監督の『キャプテン・フィリップス』(13)の音楽もパウエルではなくヘンリー・ジャックマンでしたから。
それでもこうして本家の続編が作られて、「愛妻が亡くなる」という不幸を乗り越え、パウエルもシリーズの音楽担当に復帰したのでした。
ただでさえ実写アクション映画の作曲から距離を置いていたのに、そのうえ奥様(フォトグラファーのメリンダ・ラーナーさん)が亡くなるという不幸に見舞われたら、仕事に打ち込めないのではないかと思ってしまいますが、パウエルは気持ちを切り替える意味も込めて『ジェイソン・ボーン』の作曲に取り組んだようです。共同作曲者としてクレジットされているデヴィッド・バックリーは、パウエルの仕事の負担を減らすための助っ人的なポジションだったと考えられます。
そういった経緯があったから、パウエルはのちにインタビューで「この仕事はいい気晴らし(=A nice distraction)になった」とコメントしたのでしょう。
『ジェイソン・ボーン』は映画としての出来は正直微妙なところも多いです。
シリーズのテーマが「自分は何者なのか?」だったのに、本作のボーンは「父の死の真相探し」という取ってつけたような目的で動いているし、これまでCIAの工作員はマシンの如く黙々と”任務”を実行してきたのに、今回の工作員(ヴァンサン・カッセル)は私怨むき出しでボーンに襲い掛かってくる。
スノーデンやアサンジの「ウィキリークス」に代表される”情報暴露ブーム”に乗って執筆したような物語は違和感があるし、リアルなアクションが売りだったのに、終盤のカーチェイスでSWATの装甲車が一般車両をドッカンドッカン吹っ飛ばしながらラスベガスの大通りを暴走する演出は正直いかがなものかとも思う。なんか”らしくない”映画なんですよね…。
でもパウエルの音楽は表現力と推進力のバランスが取れていて、シリーズ屈指の完成度だと思うのです。パウエルの音楽のおかげで、映画本編が”らしくない”雰囲気でも観客が『ジェイソン・ボーン』シリーズの新作なのだと認識して観ることが出来る。そういう意味でもパウエルが創作した『ジェイソン・ボーン』シリーズの音楽は大きな力を秘めているんだなと思いました。
ちなみにパウエルが映画音楽の作曲の仕事を休んでまで打ち込んでいた演奏会(第一次世界大戦100周年記念コンサート)用のオラトリオ”A Prussian Requiem”ですが、こちらのデジタルアルバムで聴けます。
Hubris: Choral Works by John Powell – amazon music
そしてパウエルは『STILL: マイケル・J・フォックス ストーリー』(23)で自身初となるドキュメンタリー映画の作曲を手掛け、エミー賞のドキュメンタリー部門で最優秀作曲賞を受賞したのでした。
Still: A Michael J. Fox Movie (Soundtrack From The Apple Original Film) – amazon music
実写アクション映画の作曲の仕事から距離を置くようになっても、アニメーションやドキュメンタリーで質の高い仕事をしているということでしょう。