昨年の暮れからユニバーサルミュージックで始まった、高橋幸宏さんのEMI時代(+コンシピオ時代)のアルバムをリマスター盤として紙ジャケ・SHM-CD仕様で発売するリイシュー企画。
自分としては故人の追悼商法的な企画にあまりお金を使いたくないな…という気持ちもあるのですが、幸宏さんのEMI時代のアルバムは2009年のSHM-CDでのリイシュー企画の際にボーナストラックが追加されたアルバム(具体的にはライブ盤の『A NIGHT IN THE NEXT LIFE』とコンシピオ時代の3タイトル)しか買わなかったため、前回購入を見送った再発盤はこの機会に新しいものを買っておこうかと思った次第です。
そんなわけで、まずは1988年リリースの『EGO』から。
EGO (限定盤)(SHM-CD) – amazon
EGO<限定盤> SHM-CD (TOWER RECORDS)
このアルバムを聴いたのはまだ小学生の時でした。
自分より先に3つ年上のイトコ(YMOでは教授派)がアルバムを買っていて、仙台の実家に帰省したときにアルバムの感想を聞かせてくれました。
当時の自分は都内(目黒区)在住で、帰省したときにイトコとYMO談義に花を咲かせるのが一番の楽しみでした。
で、そのイトコ曰く「高橋幸宏の新しいアルバム聴いた? 結構すごいよ」とのこと。
「なにがすごいの?」と尋ねると、「こんな神経質そうな音のアルバムって(なかなか)ないよ」というようなことを言ったのです。
自分の中で「神経質そうな音の幸宏さんのアルバム」といえば『ニウロマンティック』でしたが、その後母(幸宏さん派です)にせがんで『EGO』のアルバムを買ってもらい、「これがイトコの言っていた神経質そうな音なんだな」と思いながら聴きました。
当時の自分は小学生、イトコは中学生でしたが、その歳でこういうアルバムの聴き方が出来た彼は大人だったんだなと改めて思います。ものの見方が大人だったけれども、自分に対して年上マウントを取ることもなかったので、いいイトコだったのだと思います。
この時期の幸宏さんと言えば、ビートニクスの1987年のライブの本番中に鈴木慶一氏から「幸宏、けっこうキてない?」と耳打ちされたのがきっかけで神経症を再発。そのまま『EGO』のレコーディングに突入し、毎日ピリピリしながらスタジオに通い詰め、ご自身の完璧主義的なところが悪いほうに出てしまい、何回やり直しても納得出来ずにレコーディングを終わらせられない状態が続いたそうです。しかもその間に盟友の生田朗氏も事故で亡くなっている。
ちなみにエッセイ『犬の生活』に記載されていた情報によると、レコーディング中に幸宏さんが愛飲したスポーツ飲料は307.5本、タバコ「ハイライト」は7,380本だそうです。
幸宏さん、タバコ吸い過ぎですよ…。
エッセイの中では「レコーディングは実に4ヶ月の期間をかけてつい最近終了した」と書かれていましたが、2000年代のインタビューでは「制作に1年かかった」と仰っています。いずれにしろ長期間にわたるレコーディングだった模様。スタジオに遊びに来た細野さんに「テラ・インコグニータ」というラテン語の言葉を提示されて少し前向きになれたのだとか。
そういう状況で制作したアルバムなので、音が神経質だしアルバム全体から漂う雰囲気も実にシリアス。音や歌詞にどこかキュートさがあったポニーキャニオン時代の2作(『ONCE A FOOL…』と『…ONLY WHEN I LAUGH』)とは明らかにトーンが違う。
でも、この神経質そうな感じとシリアスさがいいんですよね…。
いまも昔も「EROTIC」と「DANCE OF LIFE」のセンシティブかつダンサブルなサウンドが一番好き。
「THE PRICE TO PAY」パート2という感じの「ONLY THE HEART HAS HEARD」もいい。
歌詞が1番、2番…と進行して行くにつれて音のレイヤーが増えていくアレンジが素晴らしいのです。
“天使が降りてくる音を 心だけが聞いていた”という歌詞が、次作『BROADCAST FROM HEAVEN』に繋がっていくようで、このあたりもドラマティックです。
日本語歌詞の曲で個人的に一番好きなのが「朝色のため息」。
「恋人に去られて部屋で落ち込んでいたら、明け方に(恋人が)戻ってきた」という、最後に救いのある展開に泣けました。幸宏さんが描く「情けない男」の詞の世界でも、こういう結末はちょっと珍しいような気がします。
幸宏さんと大村憲司さんが詞を書き、細野さんが作曲した「SEA CHANGE」は亡くなった生田氏へ捧げられていますが、キーボードは教授が弾いているのかな。それとも小林武史氏か。もし教授だったら生田氏とゆかりのある仲間たちで追悼した曲ということになるのですが。
今回のリマスターで音がどう変わったかは正直よく分かりません。
もともとのアルバムもいい音だったし。
まあ、リマスター盤もいい音ではないかと思います。
そんなわけで、東芝EMI時代の幸宏さんのアルバムでは『EGO』が一番好きです。
当時もそう思っていたし、いまもそれは変わりません。
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■Eliot Lewis / Enjoy The Ride+Master Plan
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