『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』とその音楽の思い出

ゲーム音楽家/作曲家の斉藤康仁氏が2024年7月18日に亡くなったというSNSの投稿を読みました。「まだそんなお年ではないのでは…?」 と思いましたが、虚血性心疾患で亡くなったそうで…。ご冥福をお祈りいたします。

斉藤氏の音楽を愛聴していた方々が、それぞれ思い入れのあるゲームタイトルをSNSで挙げていらっしゃいましたが、自分の場合は断然『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』の6作品です。

1990年代当時、自分はアドベンチャーゲームと探偵小説、ハードボイルド小説にハマっていました。
アドベンチャーゲームでは『探偵 神宮寺三郎』シリーズ(87~)、『スナッチャー』(PCエンジン版:92)、『シルバー事件』(99)と、この『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』がお気に入りでした。
自分はFM TOWNSを持っていなかったので、当時プレイできたのはPCエンジンCD-ROMとMEGA CDに移植された『AYA』と『Orgel』だけでしたが、「人の心の中に潜入し、精神世界を探って事件の真相を解明する」というストーリーに大変引き込まれました。

PCエンジン版は内臓音源がいささかチープだったのですが、独特な雰囲気を持った音楽が印象的でした。そしてCD音源で収録されていた音楽が素晴らしかった。
クリア後のエンドクレジットを見て斉藤康仁さんという方が作曲したと分かりました。当時はインターネット環境がなかったので、斉藤氏のほかの音楽担当作品まで調べられませんでしたが。

そして時は流れて2020年代。

コロナ禍のはじめの頃、不要不急の外出を自粛してステイホーム生活を続けていたとき、YouTubeやニコ動でリメイク版『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』の全タイトルのDAPSリプレイ動画がアップされているのを発見し、暇つぶしに片っ端から観ていました。それらを観て改めて思ったのが、「斉藤氏のシリーズ音楽はどれも素晴らしいな」ということでした。

そうしたところ、昨年(2023年6月)シリーズのベスト盤サントラなるものが発売されたと知って、すぐさま購入した次第です。

サイキック・ディテクティブ・シリーズ/ザ・ベスト (amazon)

「ずいぶんマニアックなサントラが発売されたもんだなぁ。しかも令和になって」…などと思ってしまいましたが、サントラ盤自体は1991年に東芝EMIから発売になったもので、ユニバーサルミュージックがほかのゲームサントラと一緒にリイシューしたもののようです。
だから収録曲が第1作『Invitation』、第2作『Memories』、第3作『AYA』、第4作『Orgel』、第5作『Nightmare』までで、1993年に発売になったシリーズ完結編『Solitude』の曲は未収録だったんですね。

自分が影響を受けた前述のアドベンチャーゲームの音楽ジャンルを大雑把に分類すると、『神宮寺三郎』シリーズはジャズ、『スナッチャー』は広義のフュージョン、『シルバー事件』はシンセスコア(ネオン・ノワール系)という感じと考えているのですが、『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』はそのいずれとも違う雰囲気で、強いて言うなら「よりクールなトレンディドラマ音楽」とか「スタイリッシュな『火曜サスペンス劇場』系音楽」という表現がしっくり来るかな、と自分は思います。

シリーズのファム・ファタール的存在である真行寺彩が「和服姿の美女」だからなのか、音楽にもほのかに和テイストが感じられるのがいい。
ある人物の精神世界に「異国感漂う50年前の日本」が構築される『Memories』のメインテーマ”Japanesque #1″の和洋折衷的なサウンドも素晴らしい。

自分が最も印象に残っているのは『Orgel』のエンディングテーマ”Opposite Love”ですね。

当時PCエンジン版をフラグ立てに苦戦しながらプレイして、エンディングでこの曲が流れたときに思わず聞き入ってしまったのを今でも覚えています。
この曲は異なる2つの旋律が同時に奏でられる構成の曲なのですが、「同時に鳴らしても全く違和感なくなじむ旋律」を作曲した斉藤氏の手腕がお見事だと思いました。
そしてこの2つの旋律は、それぞれ『Orgel』の劇中に登場する「母」と「娘」を象徴するものになっているという”仕掛け”まで用意されている。
ピアノのフレーズが「母」でストリングスのフレーズが「娘」のモチーフになっているようなのですが、曲の最後のほうでこの2つが反転するんですね。「母」のフレーズがストリングスで演奏され、「娘」のフレーズがピアノで演奏される。この音楽演出によって、『Orgel』の悲しい結末に少しだけ”救済”が感じられるのです。

ちなみに当時高校生だった自分は、「ここで2つのメロディが同時に流れるの、絶対何か意味があるって!」と友人に主張していました。今思えば、その頃から「曲を分析しながら聴く」という映画音楽物書きの資質があったのかもしれません。
友人はこの”Opposite Love”を「憂鬱になって窓から飛び降りたくなるような曲」などと言っていました。ヒドい表現ではありますが、まあ確かに物悲しい曲ではあります。

このベスト盤サントラにはシリーズ5タイトルの音楽が収録されていて、斉藤氏の原曲が10曲、ほかのミュージシャンによるアレンジバージョンが5曲という構成になっています。
アレンジバージョンがハウスミュージック調の編曲多めなのは1991年という”時代”を感じますね。この時期は教授(坂本龍一)も「heartbeat」でハウスミュージックに取り組んでいたので。
アレンジバージョンではギターロック調の編曲がカッコいい”Igniter”が好きです。

しかし”Opposite Love”や”Photograph”は斉藤氏の原曲バージョンで聴きたいなと思い、棚の奥からPCエンジンCD-ROMを探し出し、CD音源をMP3にして取り込みました。
こうなってくると『サイキック・ディテクティヴ・シリーズ』全タイトルの全曲集が聴きたくなりますね…。

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