BANGER!!!で書いた『ターミネーター2』(ほかシュワ映画3タイトル)音楽コラムの補足的なお話

『ターミネーター2』(91)が2週間限定でリバイバル上映されるということで、先日映画情報サイト「BANGER!!!」に音楽コラムを書きました。

「ダダン・ダン・ダダン」のテーマ曲はフライパンの音も使用!『ターミネーター2』ほかシュワルツェネッガー映画の〈音楽〉を濃厚解説 | https://www.banger.jp/movie/121074/

見出しで「濃厚解説」なんて書いてありますが、テーマ曲でフライパンを叩いた音を使っている件も、リズムを手動で悪戦苦闘しながら同期させたらあのテーマ曲が出来上がった件も、今となっては割と知られた話なので、『ターミネーター』シリーズの音楽については比較的あっさりご紹介したつもりです。自分はラーメンも濃厚系よりあっさり系が好きですし(そういう話じゃない)。

それに先日「午後のロードショー」で『ターミネーター』(84)の放送があった際、ブログでサントラ盤のリリース状況などもご紹介済みだったのでした。

だからここだけの話、今回のコラムでは『ターミネーター2』のリバイバル上映のタイミングに乗っかって、音楽について語られる機会の少ない『イレイザー』(96)、『コラテラル・ダメージ』(02)、『大脱出』(13)のスコアをビシッとご紹介したいという思いのほうが強かったのであります。

…そんなわけで、当方のブログでもう少し掘り下げた話を書かせて頂きたいと思います。

『ターミネーター』音楽制作裏話いろいろ

Music from The Motion Picture The Accused (告発の行方) – TOWER RECORDS

今回のコラムを書くにあたって、ブラッド・フィーデルの最新インタビュー記事を調べたり、何か自身のキャリアを振り返って面白い話をしていないかなと『告発の行方』(88)のサントラ盤をわざわざ買ったりしました。

『告発の行方』のブックレットには『ターミネーター』の音楽コラムの参考になるようなことは書いていなかったし、ネット上のインタビュー記事にも目新しいネタはなかったのですが、興味深いエピソードをひとつ挙げるとするなら『ターミネーター』第1作のとき、プロデューサーのゲイル・アン・ハードはフィーデルの起用に懐疑的だったという話ぐらいでしょうか。
当時のフィーデルはテレビ作品ぐらいしか実績がなかったので、「この人物に長編映画の音楽を任せていいのか?」と思ったらしい。インタビュー記事の中で「その話にはあまり触れたくないのですが…」とフィーデルが言っていたので、ご本人の意思を尊重してBANGER!!!ではこのネタを書きませんでした。

一方ジェームズ・キャメロンとは良好な関係を築けたようで、「テンプトラックを使わずに映画を見せてくれ」というフィーデルのリクエストにも従ったとか。これが第1作の小ネタ。

『T2』のほうはとにかく製作スケジュールがタイトだったらしくて、CGや視覚効果が未完成の映像を見ながら、想像力を膨らませてスコアを作曲していかなければならなかったらしい。
今みたいに曲を作ったらクラウドストレージにアップロードして、遠方で仕事をしている編集チームが必要に応じてダウンロード…という進め方は出来ないので、フィーデルの自宅スタジオの前で配達人が座って待っていて、曲が出来たらマスターのデータを受け取ってすぐ飛行機に乗って制作現場に向かう、なんてこともあったそうな。

漫画家や小説家のすぐ隣に編集者が座り込んで「先生、原稿まだですか?」と催促するシチュエーションがよくありますが、ほとんどあの状況。フィーデルは『T2』音楽制作の最後のほうで一日18時間、週7日働いていたらしい。これが第2作の小ネタです。

『イレイザー』サントラ盤に関するミニ情報

当方が所有している『イレイザー』のサントラ盤は、La-La Land Recordsから2010年に3,000枚限定でリリースになった拡張版スコアアルバム。アラン・シルヴェストリのスコアを21曲収録しています(収録時間77分)。
本編未使用のスコアを収録した「完全版」なわけですが、ヴァネッサ・ウィリアムズの主題歌は未収録。当時Atlantic Recordsから発売になった通常盤サントラにも未収録でした。主題歌だけシングルで出ていたような記憶があります。
「主題歌を聴きたかったらシングルで買ってくれ」という”サントラあるある”ですね。大物アーティストだと特にその傾向があります。

なおエンドクレジットで最初に流れるトレヴァー・ラビンの”Caught A Train”は、通常盤サントラにも拡張盤サントラにも未収録。ぱっと聞いた感じヴォーカルはラビンではなさそう(曲のクレジットも”Written and Produced by Trevor Rabin”となっている)ですが、誰が歌っているのかは情報が皆無で分かりません。

『コラテラル・ダメージ』の音楽はなぜグレーム・レヴェルだったのか、という考察

Collateral Damage (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music

『コラテラル・ダメージ』は個性派作曲家のグレーム・レヴェルがシュワ映画の音楽を担当したのが実に興味深い。2000年代と言えば肉体派アクション俳優が斜陽の時代であり、1980年代とは違う役柄を演じて”イメチェン”を試みた俳優も少なくありませんでした。

そんな中でシュワ氏が主演を務めた『コラテラル・ダメージ』も、キャリアの転機となる結構重要な作品だったのではないかと思っております。
まず「何があっても必ず家族を守る男」のイメージだったシュワ氏、本作では映画開始早々妻子が爆弾テロの犠牲になります。そして単身敵地に乗り込んでいって無双するのがシュワ映画のお約束ですが、本作では消防士ということもあり、アクションではもっぱら肉弾戦で銃を撃ちまくらない。
さらに「敵を倒してハッピーエンド!」というラストにならない。物語の最後である人物の携帯電話の画面に表示された「Cancel」の意味(あらゆる解釈)を考えてみると、シュワ氏が沈黙を貫いたラストの”重さ”が伝わってくるような気がします。

こういう重いテーマを扱ったアクションスリラーには、レヴェルの音楽が実にマッチする。

The Siege (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music

なにしろレヴェルは『マーシャル・ロー』(98)でテロリズムの脅威とアメリカの”正義”を問いただす非常に重い音楽を作曲しているので、今回は物語の舞台(と音楽の要素)を中東から中南米に移して同様のテーマに挑んでいると言えるわけです。
筋肉であらゆる問題を解決してきた1980年代の痛快無比系シュワ映画とは一線を画した、極めてシリアスなアクション音楽だったと言えるでしょう。

『大脱出』のアレックス・ヘッフェスという作曲家はもっと注目されていいと思う

Escape Plan (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music

『大脱出』のスコア作曲を手掛けたアレックス・ヘッフェス、あまり知られていませんが個人的に割と長く活躍を追っている作曲家さんです。
自分が初めてこの方の名前を見たのは『Dear フランキー』(04)でしたが、代表作は『ラストキング・オブ・スコットランド』(06)ということになるでしょう。
この映画のサントラは国内盤もリリースされましたが、売り方としてはヘッフェスの音楽というよりも「珠玉のアフリカ音楽が楽しめるサントラ」的な宣伝をしていたような記憶があります。

『ラストキング・オブ・スコットランド』のデジタル版サントラは、CD版のサントラからへッフェスのスコアだけ抽出した内容みたいですね。

The Last King of Scotland (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music


ちなみにヘッフェスは『マンデラ 自由への長い道』(13)でゴールデングローブ賞の音楽賞にもノミネートされています。

State Of Play (Original Motion Picture Soundtrack) – amazon music

個人的にヘッフェスの作品で一番好きなのは『消されたヘッドライン』(09)ですね。
CDプレス盤でサントラが出なかったので配信で買いました。

『大脱出』のミカエル・ハフストローム監督とは『ザ・ライト -エクソシストの真実-』(11)に続く2度目のコラボでした。オケ+シンセにギターやドラムス、打ち込みのリズムを用いた今風のアクションスコアがなかなかいい。同じ「オケ+シンセ」系の音楽でも、リモート・コントロール・プロダクションズ組ともちょっと違う作風なのが面白いなと。

ドキュメンタリーからアクション、ホラー、サスペンス、社会派映画までジャンル不問、クラシカルなオーケストラ劇伴も、シンセを使ったモダンなオーケストラ劇伴も手堅く作曲できる優れた音楽家ではないかと思います。

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