正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官

マスコミ試写の時に貰ったプレス資料に書いてあったのですが、ハリソン・フォードはこの映画で初めてメジャー・スタジオ以外の作品に出演したとか。そうか、興行的にパッとしなかった映画とか、見た目お金がかかってなさそうな映画でも、あれは一応メジャースタジオ製の映画だったんだなー、と今更のように思ってしまいました。

そういえばあまりこの人が「新進気鋭の若手監督と組んだ」とか「脚本に惚れ込んで、格安のギャラでインディー映画に出演」というような話は聞かなかったような気もします。

で、今回の『正義のゆくえ I.C.E.特別捜査官』(08)がまさにそういう作品であったというわけです。

ハリソン・フォードは作品によって演技を変えてくるタイプというより、本人の持つオーラ/スター・パワーのようなもので魅せる(いい意味で)古風なタイプの役者なので、こういう低予算映画の、しかも群像劇で個性を発揮出来るのだろうかと思ったのですが、いざ本編を見てみたら、なかなかいい感じではありませんか。シャイア・ラブーフにオイシイところをほとんど持って行かれてしまっていた『インディ・ジョーンズ/クリスタル・スカルの王国』(08)なんかより、遙かにいい演技をしていると思うんだけどなぁ。

彼が演じるのはICE(Immigration and Customs Enforcement=移民・税関捜査局)のベテラン捜査官マックス。正義漢だが、つい取り締まるべき不法滞在者の事情を気遣ってしまう人情家というキャラクターで、僕の大好きな『刑事ジョン・ブック/目撃者』(85)を彷彿とさせるものがあります。『ファイヤーウォール』(06)の闘うオトーサンもよかったですが、この映画の「ホトケのマックス捜査官」もいい味出してます。

一方、マックスと対極をなす屈折した移民判定官が登場するのですが、そのキャラを演じているのがレイ・リオッタ。どう見ても悪徳役人でしょ、これは。案の定、グリーンカードが欲しくて欲しくて仕方がないオーストラリア人の若手女優に向かって「永住権を何とかしてやるから、2ヶ月間オレの女になれ」などとのたまってくれます。さすがレイ・リオッタ。この人はこういうヤバい役をやらせると抜群に巧いなー。必見。

ちなみにコールの妻は人権派の弁護士なんですが(演:アシュレイ・ジャッド)、ま、多分若い頃はコールも理想に燃える真っ当な移民判定官だったのでしょう。それが歳を取って倦怠期を迎えたら、人生も仕事も斜に構えて見るようになってしまったと。恐らくそういう背景があるのではないかな、と思ったり。何となくリオッタの演技がそういう風に見えるんですよ。

この映画が扱っているのは「アメリカの不法滞在者問題」なので、同じ社会派の群像劇でも人種間のぶつかり合いを描いた『クラッシュ』(04)とはちょっと違うかな、と思います。だからこの映画では不法滞在者同士はあまり絡まず、「不法滞在者」と「彼らと何らかの形で関わる事になるアメリカ人(特に上記の3人)」のドラマを中心に物語が展開していきます。

ひとくちに「不法滞在者」と言うけれど、彼らがいなければアメリカの産業(経済)が成り立たないのもまた事実なわけで(いわゆる「3K」的な仕事を国内で一手に引き受けているのは彼らですから)、これは非常にデリケートかつ難しい問題のようです。

捜査官にも人情がある。
「彼ら」にも事情がある。

・・・というフレーズが、本作の全てを言い表していると言えるでしょう。映画のラストも決して後味のいいものではありませんが、社会派ドラマ的なメッセージ性と、サスペンス・スリラーとしての娯楽性のバランスがいい感じで、最後までダレずに観られます。

監督・脚本は『ワイルド・バレット』(06)のウェイン・クラマー。実はこの『正義のゆくえ』はクラマーが1996年に監督した短編映画『Crossing Over』のセルフ・リメイクです。オリジナルでミレヤ・サンチェスを演じていたジャクリーン・オブラドゥースが、今回はFBI捜査官を演じてます。オブラドゥースとハリソンは『6デイズ/7ナイツ』(98)で共演してますが、今回は2人が顔を合わせるシーンはナシ。

俳優の演技でじっくり見せるタイプの映画ですので、アクション大作に食傷気味の方は是非ご覧になってみて下さい。

詳しい内容はオフィシャルサイト(http://seiginoyukue.jp/)で。

音楽についてはまた後ほど。