11月8日からリバイバル上映が始まる映画『クルージング』(80)の音楽について、映画情報サイト「BANGER!!!」でいろいろ書きました。
抗議殺到、賛否の嵐!「猟奇殺人事件とSMクラブ潜入捜査」描いた衝撃作『クルージング』のハードな音楽世界 | BANGER!!! https://www.banger.jp/movie/126161/
この映画が批判と議論の的になったセンセーショナルな映画であることは周知の事実ですし、そちら方面の話はほかの評論家の方々の専門だろうと思い、映画本編については通常とは違う切り口からコラムを書いたつもりです。自分の専門分野は映画音楽でもありますし。
音楽ネタに関しては字数の都合でBANGER!!!では書ききれなかったことも多々ございますので、当方のブログでもう少し掘り下げて書かせて頂きたいと思います。
この映画のサントラ盤は1980年の劇場公開当時レコードで発売されていたようです(映画パンフの最後のページに国内盤サントラの紹介が載っていました)。ただしその後しばらくサントラはCD化(再販)されなかった模様。
2015年にAudio Fidelityというレーベルから数量限定のSACDでひっそりと発売されたようですが、製造枚数が少なかったのか、廃盤になった現在では入手困難になっています。自分もSACD化されていたことに全く気がつきませんでした。
Cruising Original Motion Picture Soundtrack (SACD) – amazon
Cruising Original Motion Picture Soundtrack (SACD) – TOWER RECORDS
そして2019年、Waxwork Recordsから180gの重量盤アナログレコード3枚組・枚数限定でサントラが再販されました。
「そのうちCD2枚組とかデジタル版でもサントラが出るのだろう」と思い、この時期に『クルージング』の音楽ネタをあれこれ収集していたのですが(←この資料が今回のBANGER!!!で役立ちました)、結局アナログ盤のみのリリースだったようです。
アナログレコードを聴く環境がない(&値段が高くてあれもこれもと手が出せない)当方は、今回も『クルージング』のサントラは買えずじまいでした。
それはさておき、Waxworkから発売になったサントラの収録内容はこんな感じ。
Cruising (Original Motion Picture Soundtrack) [Analog] – amazon
Cruising Original Motion Picture Soundtrack (Analog) – TOWER RECORDS
Side A
Willy DeVille – Heat Of The Moment
The Cripples – Loneliness
John Hiatt – Spy Boy
Madelynn Von Ritz – When I Close My Eyes I See Blood
Mutiny – Lump
Side B
Rough Trade – Shake Down
Willy DeVille – Pullin’ My String
Germs – Lions Share
The Cripples – Hypnotize
Willy DeVille – It’s So Easy
Side C
Barre Phillips – A-I-A
Ralph Towner – Waterwheel
Side D
Barre Phillips – Movement
Egberto Gismonti – Movement
Mutiny – The Ballad Of Capt. Hymbad
Side E
Germs – Throw It Away
Germs – Not All Right
Germs – Now I Hear The Laughter
Germs – Going Down
Germs – My Tunnel
The Cripples – New York Street Rap
Side F
The Cripples – Hepcat
Rough Trade – Hurry
Rough Trade – Long Distance Runner
Rough Trade – Don’t Let It Get To Your Head
Mutiny – Reality
Mutiny – How’s Your Loose Booty?
Mutiny – Will It Be Tomorrow?
「映画の中でこんなに曲を使ってたっけ?」と思いましたが、どうやら「映画のためにレコーディングしたものの本編では使われなかった曲」も収録した完全版サントラということらしい。
つまりジャームスやザ・クリップルズ、ラフ・トレードらは映画のために1, 2曲だけ曲を書いて提供したのではなく、何曲も作った中からウィリアム・フリードキン監督が気に入った曲を選んで本編で使用したということなのでしょう。
1980年代当時リリースされたサントラ盤の内容がLP1枚目のSide AとSide Bというのは確実として、LP2枚目のSide CとSide Dに収録されたバール・フィリップスやラルフ・タウナー、エグベルト・ジスモンチの曲は劇伴にあたるものなのではないかな…と考えられます。
LP3枚目は本編未使用のデモ音源集といった感じでしょうか。自分はアナログ盤のサントラを買っていないので、収録曲から推測するしかないのですが。
ちなみに自分は今回ものすごく意識を集中して『クルージング』を観直しましたが、何度観てもザ・クリップルズの”Hypnotize”が使われているシーンを確認できませんでした。「見落としてるのかな?」とも思いましたが、何年か前のネットの記事を調べていて謎が解けました。
サントラ盤にも収録されていた”Hypnotize”は、最終的に曲が使われたシーンをカットされたらしい(何かのイベントで、クリップルズのヴォーカルのショーン・ケイシー・オブライエンの質問にフリードキンがそう答えていた)。
『クルージング』はレイティングを成人指定からR指定にするため、映像を40分ほどカットしたことで一部の映画ファンに知られていますが、”Hypnotize”の使用シーンもその「カットされた映像」のひとつだったということらしいです。
本作のサントラに「マデリン・フォン・リッツ」の変名で曲を提供したリン・キャッスルは、当時美容師として働きながら地道に曲を作っていて、ジャック・ニッチェの協力を得て自作曲のレコーディングも行っていたようです。そんな彼女の歌曲集が数年前にひっそりと発売されていました。
Lynn Castle / Rose Colored Corner – amazon music
そういった縁で『クルージング』のサウンドトラックでも、ニッチェからお声がかかったという流れと思われます。
BANGER!!!のコラムでも書いたとおり、フリードキンは実際の”この種のナイトクラブ”の店内で流れていた曲が普通のディスコ音楽だったので、「これは違う!」と思って、より刺激的な求めてニッチェと共に「理想のサウンドトラック」を作り上げました。
だからこの映画に登場するSMクラブの音楽演出は「フリードキンの趣味/意向」が入っていて、そういう意味では「100%リアルではない」ということになります。
しかし、もし本編の”あの映像”のバックでドナ・サマーやKC&ザ・サンシャイン・バンドの曲が流れていたら、「曲と映像が合ってないなぁ」と思うだろうし、ヘタをすれば滑稽になってしまう可能性もあった。だからあれはあれで正解だったのではないかと思います。
もともとフリードキンは『フレンチ・コネクション』(71)のドン・エリスのジャズ劇伴や、『エクソシスト』(73)のアヴァンギャルドな現代音楽、『恐怖の報酬』(77)のタンジェリン・ドリームによるシンセ劇伴、『L.A.大捜査線/狼たちの街』(85)のワン・チャンによるアップテンポな劇伴など、「テンション高め」かつ「高揚感のある」音楽を好む傾向があった。だから『クルージング』の音楽に攻撃的なパンクロックやニューウェーブ・ロックを求めたのも必然だったと言えるでしょう。
ちなみにニッチェとフリードキンはマダム・ウォンズ・ウエストやウイスキー・ア・ゴーゴーなどのクラブを回ったとのこと。この事実からもどういう音楽を探し求めていたか分かるというものです(マダム・ウォンことエスター・ウォンは当時「パンク・ロック界のゴッドマザー」の異名を取っていたそうな)。
もし1980年以降、”この種のナイトクラブ”の店内でパンクロックやハードロックが流れるようになったのだとしたら、それは『クルージング』の影響ということになるのかもしれません。
何にしても、『クルージング』が強烈な影響力を持った映画であることは確かです。
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