今週の「午後のロードショー」で『コラテラル』(04)の放送があるので、コロナ禍の間にせっせと自作した長尺版サントラのお話でも書こうかなと思います。
『コラテラル』は劇場公開当時16曲入りのソングコンピレーション盤サントラが発売になりました。コンピ盤といっても、ジェームズ・ニュートン・ハワードの劇伴を4曲とアントニオ・ピントが作曲した追加の劇伴を2曲収録しているのですが。
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そして2016年、Intrada RecordsからJNHの劇伴を完全収録したスコアアルバムが発売になったのです。
JNHは50分近くの劇伴を作曲したものの、本編で使われたのはその中の15分だけでした。ブックレットに載っていたJNHのインタビューを読むと、「自分はこの映画で2つの目標を達成したから(概ね)満足している」とのこと。その「2つの目標」とは、
- マイケル・マンの映画で「Music by James Newton Howard」とクレジットされたこと
- 自分が作った曲の4割が映画本編で使われたこと
…なのだそうです。この謙虚な姿勢がいかにもJNHという感じでグッと来ます。というか泣けます。
そんなJNHでも、ヴィンセントへのレクイエムのつもりで作曲したギターロック調の劇伴”Finare”が不採用になったのはショックだったらしい。実際に映画本編のラストで使われたのは、ピントが書き下ろした”Requiem”とグリーン・カー・モーテルの歌曲”Destino De Abril”でした。
ソングコンピ盤のトラックリストはこんな感じ。
- Briefcase (Tom Rothrock)
- The Seed (2.0) (Extended Radio Edit) (The Roots)
- Hands Of Time (Groove Armada)
- Guero Canelo (Calexico)
- Rollin’ Crumblin’ (Tom Rothrock)
- Max Steals Briefcase (James Newton Howard)
- Destino De Abril (The Green Car Motel)
- Shadow On The Sun (Audioslave)
- Island Limos (James Newton Howard)
- Spanish Key (Miles Davis)
- Air (Klazz Brothers & Cuba Percussion)
- Ready Steady Go (Remix) (Paul Oakenfold)
- Car Crash (Antonio Pinto)
- Vincent Hops Train (James Newton Howard)
- Finale (James Newton Howard)
- Requiem (Antonio Pinto)
『コラテラル』の既製曲の使い方で面白いのは、「ヴィンセントとマックスが訪れた場所によって曲の傾向が変わる」ことでしょうか。ラテン系麻薬組織のボス、フェリックスのいるクラブではキャレクシコやグリーン・カー・モーテルの曲が流れ、コリアンバーでは”Ready Steady Go”の韓国語バージョンが流れる。曲の変化によって「人種のるつぼ」ロサンゼルスの雰囲気を表現しているともいえる。
あとはマックスのタクシー内で流れてる(あるいはそう聞こえる)曲もセンスが良く、「マックスのプレイリスト」的な感じがあって面白い。
そしてスコアアルバムのトラックリストはこんな感じ。
ちなみにスコア盤のジャケ写は「オモテ: ヴィンセント(トム・クルーズ) / ウラ:マックス(ジェイミー・フォックス)」というリバーシブル仕様になっています。
- Max And Vincent Talk
- Arriving At Second Hit
- Sylvester Clarke
- Cut Cuffs
- You Like Jazz?
- Daniel
- Daniel Is Killed (Alternate)
- Flowers
- Max Steals Briefcase
- Fanning At The Morgue
- Talk About Parents
- Island Limos
- Surveillance At El Rodeo
- Max Meets Felix
- Cops Pursue
- Race To Annie
- Cat And Mouse
- Race To The Metro
- Vincent Hops Train (Alternate)
- Would Anyone Notice? (Finale)
- EXTRAS: Daniel Is Killed (Original)
- Vincent Hops Train (Original)
“Island Rimos”と”Max Steals Briefcase”, “Vincent Hops Train”, “Finare (別名: Would Anyone Notice?)”が重複するので、ソングコンピ盤からその4曲を削除してスコア盤とひとまとめにしたものをウォークマンに取り込んだのでした。
『コラテラル』のJNHの劇伴はオケ+シンセのメロディレスな都会派アンダースコアという感じ(監督の要望らしい)。したがって「燃えるアクションスコア」を求めるリスナーにはいささか退屈に聞こえるでしょう。『フィクサー』(07)や『ナイトクローラー』(14)あたりのJNHの劇伴が好きな人向けと言えるかも。
もしサントラ未収録曲をセルフ補完したい場合は以下の曲を追加して下さい。
Debestar – The Green Car Motel
Love Me So Bad – Lyrics Born
En Mi Pueblo – Bandidos de Amor
Driften- Thomas Schobel
R.I.P. – Inner City Soul
Ven Aca Bonita – Bandidos de Amor
Iguazu – Gustavo Santaolalla (Performed by Antonio Pinto)
…と言っても、グリーン・カー・モーテルの曲は”Destino De Abril”も”Debastar”もデビューアルバムに未収録だったような気がします。この映画のために書き下ろした曲ということでしょうか。
そしていつものマイケル・マン映画のように、自身の過去作品の劇伴やほかの映画の劇伴も既製曲のごとく使っています。
Exile from Insider (1999) – Pieter Bourke & Lisa Gerrard
A Roda from Abril Despedaçado (2001) – Antonio Pinto
Steel Cello Lament from Heat (1995) – Elliot Goldenthal
Moxica & His Horse from 1492: Conquest of Paradise (1992) – Vangelis
“A Roda”はウォルター・サレス監督作『ビハインド・ザ・サン』(01)の劇伴のようです。この時期のマンはアントニオ・ピントの音楽に興味があったのかもしれません(たぶん『シティ・オブ・ゴッド』(02)も観ていると思う)。
Music from the Original Soundtrack – 1492: Conquest of Paradise (amazon music)
『1492:コロンブス』(92)のヴァンゲリスの劇伴を使っているというのは、マイケル・マンの場合「テンプトラックをそのまま本編に使った」というより、「本当にこの曲を使いたくて使った」という気がしてなりません。
HEAT – Music from the Motion Picture (amazon)
The Insider – Music from the Motion Picture (amazon music)
『ヒート』(95)と『インサイダー』(99)の劇伴はマイケル・マンのほかの映画でも使い回していたんじゃなかったかな。マンにとってこの2作はよほど思い入れがあるのでしょう。
というわけで『コラテラル』のソングコンピ盤とスコア盤をひとつにまとめて、『ヒート』と『インサイダー』、『1492:コロンブス』から流用した劇伴を追加したら、収録時間100分越えのサントラになりました。
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