今年も年明け早々いろいろな(悪い)ことが起きすぎて気が滅入っているところ、デイヴィッド・リンチ監督の訃報が入ってしまいました…。
現地の記事だと、リンチは南カリフォルニアの山火事のため自宅から避難したらしいので、肺気腫で弱っているところにこれらの出来事が重なって、健康状態が悪化したのではないかと思われます。弱り目に祟り目というやつでしょうか。気の毒すぎて胸が痛くなります。
「リンチさん、タバコ吸い過ぎだよ…。もっと喫煙を控えていれば長生きできたかもしれないのに…」
…と当初は思ったものの、少し冷静になって考えてみると、好きなもの(タバコ、コーヒー、ドーナツなど)を好きなだけ嗜んで、流行やプロデューサーに迎合せず自分の撮りたいように映画を撮り、絵画や音楽活動にも打ち込み、4度の結婚/離婚を経験…と自分のやりたいように生きてきたわけで、悔いのない人生だったのではないかとも思います。
いまの世の中、長生きしていてもロクなことがなさそうな雰囲気になってきているので、リンチのように「自分のやりたいことをやって気ままに暮らす」という生き方もアリなのではないかなと思いました。ある意味リンチが羨ましい。孤高の映像作家/アーティストのご冥福をお祈りいたします。
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自分がデイヴィッド・リンチの作品に初めて触れたのは『ツイン・ピークス』(90~91)でした。ありきたりすぎて話のネタにもなりませんが。
リンチ作品は「ワケの分からなさを楽しむ」という映画/ドラマの新しい見方を自分に教えてくれたわけですが、それと同時に「音響やノイズも重要な表現技法である」ということも教えてくれたのではないかと思います。
『ツイン・ピークス』を観ていた頃はまだ若く未熟だったので、音響のことはあまり気に留めていなかったのですが、リンチの長編映画を2作くらい観たあたりから「リンチの映画って音響(ノイズ)がすごく前面に出ているような…?」ということに気づいたのでした。
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インターネットが普及していなくて、現在のように映画の情報が容易に手に入らない頃、リンチ映画での「音響/ノイズ」の重要性を理解したのは『ロスト・ハイウェイ』(96)だったように思います。
無論、それまでのリンチ映画でも映画本編で各種ノイズが存在感を示していましたが、『ロスト・ハイウェイ』はサントラにもトレント・レズナーの”Videodrones: Questions”というノイズ/音響系の曲が収録されていたので、「そうか、リンチにとってノイズは劇伴や挿入歌とほぼ同等(もしくはそれ以上の)扱いなんだな」と認識したのでした。
映画本編でもナイン・インチ・ネイルズの”The Perfect Drug”のとりわけノイジーな部分を使っていましたし、終盤で流れる”Driver Down”もインダストリアル・テクノ系の曲だった。
『マルホランド・ドライブ』(01)もアンジェロ・バダラメンティの劇伴”Diner”などはほとんど4分間のノイズミュージックだった。普通のサントラなら「曲」というカテゴリーには入らず、収録曲から外されるタイプの劇伴です。
でもリンチ映画のサントラにはそんな常識は当てはまらない。なぜならリンチにとって「音響/ノイズ」は演出上重要な役割を担っているから。
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そのあとだったかな。何かの本で「リンチが『イレイザーヘッド』(77)をドルビーステレオで再構成・再録音した完全版を製作するにあたり、音響技師のアラン・スプレットと共にノイズや自然音を新たに採取して、シンセを使わずにスタジオで音を加工して一年以上ノイズの再編集・再処理に没頭した」という話を読んで、「リンチはノイズにものすごくこだわる人なんだな」と思ったものです。
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『ワイルド・アット・ハート』(90)でのタバコの先端がシュボッと燃える音とか、『マルホランド・ドライブ』や『ツイン・ピークス The Return』などでのライト(蛍光灯や電球)や電線がジージー鳴る音、あるいはパチパチと爆ぜる音、音圧が高めの低音の持続音など、ともすれば音響/ノイズのほうが劇伴より目立っているかもしれない。そしてリンチ映画でノイズが鳴っているシーンというのは、多くの場合重要な場面だったりする。
誰かにそれを教わったのではなく、自力でそのことに気づいたときの快感は忘れられません。
アラン・スプレットもアンジェロ・バダラメンティも既に故人で、リンチも惜しまれつつこの世を去りました。こことは別の世界で三人が再会して、新たなサウンド作りに没頭してくれていることを願うばかりです。
日常生活の中でちょっと耳障りなノイズを耳にしたとき、「うるさいなぁ」ではなく「あ、リンチとスプレットとバダラメンティが三人で何か始めたかな?」と思えるような日が来るといいのですが。
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