『セブン』の期間限定IMAX上映があるので、ハワード・ショアの劇伴とオープニング/エンディング曲についてもう少し書いてみました。

1月31日から『セブン』(95)の期間限定IMAX上映が始まるとのこと。
そして3月には『セブン<4K ULTRA HD&ブルーレイセット』が発売になるそうです。

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ハワード・ショアのスコアアルバムについては以前ブログでご紹介済みですが、せっかくなのでトレンドに乗ってもう少し何か書いてみたいと思います。

SEVEN: Complete Original Score (Collector’s Edition Soundtrack Album) – amazon music

実は前回のブログを書いたとき(=HOWE RECORDSから発売になったスコア盤を聴いたとき)、「このことを書こうかな、どうしようかな」と逡巡して、結局書くのを見送ったネタがありました。当方の憶測に過ぎないし、ショア本人がそう答えていたわけでもなかったので。

その一方で「もしかしたらこれは大発見かも…?」という思いもあり、ネタを眠らせておくのも勿体ない気がしました。あくまで憶測の域を出ない当方の個人的見解ということで、さらっとご高覧頂ければと思います。

それは何かと申しますと、「ジョン・ドゥのテーマ」についてです。

『セブン』の劇伴はオーケストラの重暗い音で構成されたアンダースコア的な作風ですが、その中で異様な存在感を示すモティーフがあります。
それが「ジョン・ドゥのテーマ」なのですが、例えば”Portrait of John Doe”という曲をよく聞くと、出だしのフレーズが7音(「デーデッ、デーデッ、デー、デー、デー」…と2音からなる下降音2つと3つの持続音)で構成されているのでは?…ということに気づいたのでした。

「7つの大罪」「7日間の出来事」という映画のテーマを考えれば、ショアが「7」という数字を意識して劇伴を作曲していたとしてもおかしくはない…と思うのですがいかがでしょうか。

ジョン・ドゥ本人が画面に出ていなくても、犯行現場のシーンでこのフレーズが断片的に流れていたりする。ジョン・ドゥの存在(暗躍)を示唆する絶妙な音楽演出と言えるでしょう。

ちなみに「完璧主義者」「コントロール・フリーク」として知られるデヴィッド・フィンチャー監督ですが、劇伴のレコーディングには立ち会ったものの、ショアにはあれこれ干渉しなかったそうです。

せっかくなのでオープニング曲とエンディング曲のネタも少し補足させて頂きます。

カイル・クーパーのデザインによる秀逸なオープニングクレジットで使われた、ナイン・インチ・ネイルズの”Closer (Precursor)”。

Nine Inch Nails – Closer to God (amazon music)

トレント・レズナーによれば「自己嫌悪と執着心についての歌」なのだそうですが、歌詞の“I wanna fxxx you like an animal”“I wanna feel you from the inside”という部分が特に注目された結果「欲望賛歌」と誤解され、そっちの意味でリスナーに受けてヒットしてしまったのだとか。

そして「上から下にクレジットが降りてくる」という何とも居心地が悪くなる(←褒め言葉です)エンドクレジットで流れるデヴィッド・ボウイの”The Hearts Filthy Lesson”。

David Bowie – 1. Outside (The Nathan Adler Diaries: A Hyper Cycle) [Expanded Edition] (amazon music)

ボウイのリスナーには説明不要ですが、この曲が収録されたアルバム「アウトサイド」は、「ネイサン・アドラーの日記」という架空の猟奇的殺人事件を題材にしたコンセプチュアルな作品でした。
そしてこのアルバムの収録曲には”To be sung by”と補足が書かれたものがあり、それぞれ「物語の登場人物の視点」を持っているのでした。

“The Hearts Filthy Lesson”には (to be sung by Detective Nathan Adler)とクレジットされているので、「探偵ネイサン・アドラー」の視点から歌われているということになります。

「アウトサイド」からは”I’m Deranged”という曲がデイヴィッド・リンチの『ロスト・ハイウェイ』(97)で使われていましたが、こちらは(To be sung by The Artist / Minotaur)となっているので、「芸術家/ミノタウロス」の視点で歌われた曲ということになります。

「アウトサイド」は商業的には失敗したアルバムと見なされていますが、その一方でフィンチャーやリンチのような尖った映像作家の目に留まっていたわけで、未完に終わったのが悔やまれるアルバムです。

それにしても、いま改めて『セブン』を観てみると、この映画がサイコスリラーの最終形態ではないかと思ってしまいます。『セブン』を越えるサイコスリラーはもう作れないのではないかとも。
その一方で、治安も風紀も乱れ始めた2020年代の世界を生きていると、「現実が『セブン』で描かれた世界に似てきたな」と悲しい気分になってしまうのでした。こんな風に現実が映画の世界に追いついてほしくなかったよ…。

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