『ロスト・ハイウェイ』の音楽について少しばかり調べてみたお話

『ロスト・ハイウェイ』(97)の4K版が3月21日から上映中ということで、今からブログで何か書いてもタイミング的に遅いんじゃないかと思ったものの、「全国順次公開」ということであれば少しはネタが保ちそうかなと思って、何か書くことにしました。

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本作はトレント・レズナーが「サウンドトラックアルバム・プロデューサー」を務めているわけですが、映画本編の「音楽プロデューサー」や「ミュージック・スーパーバイザー」ではないので、果たしてどこまで音楽制作に携わっているのか気になって、ここ数週間情報を調べておりました。

なので当方で分かったネタだけでもブログに書いておこうかな、と思った次第です。

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フィフティーズの懐メロを好んで使うデイヴィッド・リンチがナイン・インチ・ネイルズやスマッシング・パンプキンズ、マリリン・マンソンなどの楽曲を使うのはあまりにも異質なので、まあこれはレズナーのチョイスなのかなと思っておりましたが、それならどういう経緯でレズナーが本作に参加したのかというのが気になりました。

で、調べてみると、リンチは共通の友人の提案によってレズナーにサウンドトラックアルバムのプロデュースを依頼し、レズナーも『ツイン・ピークス』(90~91)の大ファンだったので依頼を引き受けたとのこと。
リンチはアンジェロ・バダラメンティに作曲を依頼するときと同じように、レズナーに映像も見せずに「高速道路でパトカーがフレッドの車を追いかけているシーンがある。箱から蛇が出てくるような、破滅が迫っていることを予兆する曲が欲しい」と終盤のシーンの曲をリクエストしたのだとか。それがアルバム22曲目に収録されている”Driver Down”ということになります。なお本作のためにレズナーが書き下ろした劇伴にはCOILのピーター・クリストファーソンが参加してます。

ちなみにレズナーは”The Perfect Drug”があまり気に入っていなかったようで、「振り返ってみると、もっとうまくやれたはずだと思う」などと本国のインタビューで語っていた模様。劇中でほんの少ししか使われなかったのもそのせいでしょうか。

デヴィッド・ボウイは『ツイン・ピークス / ローラ・パーマー最期の7日間』(92)にフィリップ・ジェフリーズ役で出演していたし、レズナー(NIN)とも当時一緒にツアーをしていたので、本作への参加はある意味必然だったと言えるでしょう。
『セブン』(95)で”A Hearts Filthy Lesson”が使われていたダークなアルバム「アウトサイド」もリンチの世界にピッタリだった。”I’m Deranged”は既存の曲にもかかわらず「フレッドの頭の中」を的確に描いた歌詞でした。

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スマッシング・パンプキンズの”Eye”は、ピクシーズの”Ana”が権利関係の都合で使えなくなったので、ビリー・コーガンに「何かオリジナルの曲を書いてほしい」と頼んだ結果出来上がった曲なのだそうです。

マリリン・マンソンは当時レズナーがアルバム「アンチクライスト・スーパースター」のプロデュースを手掛けていた縁での参加でしょう。
“I Put A Spell On You”(スクリーミング・ジェイ・ホーキンスのカヴァー)は既製曲で、”Apple of Sodom”が書き下ろし曲。
「お前は自分が絶対に食うことのできないものを持っている」という歌詞のフレーズが、「お前がほしい」とアリスに求愛したものの、「あんたにはあげないわ」と冷たくあしらわれたピートのことを示唆しています。

ラムシュタインはリンチにデビューアルバムのサンプル盤を送っていたそうで、そのことをしばらく忘れていたリンチが、本作のロケ地探しのとき車で彼らの曲を聴いていて「映画に使おう」と思ったらしい。リンチは映画のセットでもラムシュタインの曲を大音量で流していたのだとか。

ニック・ケイヴ・アンド・ザ・バッド・シーズでの活動を一時休止中だったバリー・アダムソンは、映画の仕事に関心があり、”架空の映画のためのサウンドトラック”というコンセプトで「Moss Side Story」なるソロアルバムもリリースしていましたが、そのアルバムをリンチが聴いて気に入ったため、彼に曲をつけてほしいシーン(の映像)を送って曲を書いてもらったらしい。アダムソンは劇伴を作曲したので”Additional Music”の作曲家というクレジットになっています。

そもそもリンチはパーティーのシーンの曲を探していて「Moss Side Story」を聴いたようなのですが、最終的にその場面ではサントラに収録の”Something Wicked This Way Comes”の編集版が使われました。
クラシックス・フォーの”Spooky”、フランソワーズ・アルディの”Le Temps Des Souvenirs”、マッシヴ・アタックの”Blue Lines”をサンプリングした粋な曲です。

本作での”懐メロ”要素はルー・リードの”This Magic Moment”とアントニオ・カルロス・ジョビンの”Insensatez”ということになるのかな。リードは原曲を思いっきり崩して歌っているので、オリジナル曲のポップ感は全くなくなっていますが。

ディス・モータル・コイルの「Song to the Siren」については以前のブログで書いたので割愛。
サントラ盤に未収録だったのは、楽曲の使用料を抑えるためと思われます。
映画で曲を使ってサントラにも曲を収録すると、楽曲使用料が跳ね上がるのでしょう。

スコア作曲はリンチの盟友アンジェロ・バダラメンティ。
今回はアダムソンの追加音楽の占める割合が結構大きいので目立たないものの、リンチがパーカッションを叩いている”Dub Driving”や”Fred’s World”などいつものバダラメンティ楽曲を堪能できます。

本作のバダラメンティの楽曲で最も強烈な存在感を放っているのが、フレッドがライブハウスで演奏していた”Red Bats With Teeth”。
曲が進んで行くにつれて、どんどん狂気を纏った異様なテンションの演奏になっていくのが素晴らしい。こんな曲が書けてしまうバダラメンティもすごい。

『ロスト・ハイウェイ』のパンフを読むと、当時サントラ盤が渋谷でバカ売れだったそうで、本作を「渋谷系リンチ映画」なんて呼んでいた映画評論家もいたような記憶があります。
それはちょっと違うのでは…? という気もしますが、リンチ映画のサントラとしては異質な内容であることは事実です。

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