BANGER!!!で書いた『アンジェントルメン』音楽コラムの補足 クリス・ベンステッドと劇伴の聴きどころについて

ランブリング・レコーズ様からのご依頼で、ガイ・リッチー監督作『アンジェントルメン』(24)のサントラ盤に音楽解説を書きました。

『アンジェントルメン』オリジナル・サウンドトラック – amazon
『アンジェントルメン』オリジナル・サウンドトラック – TOWER RECORDS

そして映画情報サイト「BANGER!!!」でも作品の見どころと音楽の聴きどころを簡単にご紹介しました。

非公式かつ非紳士的!実在した「対ナチス部隊」とは?
戦争映画にマカロニ音楽がハマる『アンジェントルメン』| BANGER!!!
https://www.banger.jp/movie/135468/

プレス資料に載っていた脚本家のアラッシュ・アメルのコメントによると、「『大脱走』(63)や『特攻大作戦』(67)、『ナバロンの要塞』(61)などのテイストを再現する作品にしたかった」そうです。
しかし”非紳士的な戦争省”のメンバーの無敵っぷりと”ただのカカシ”の如く蹴散らされるナチスのモブ兵、某特車二課の太田功巡査のような「現場に臨んでは臨機応変!」という作戦立案がほとんど意味を成さない場当たり的な展開など、どちらかというと腕力だけで難関を突破する『コマンドー』(85)や『エクスペンダブルズ』シリーズのノリに近い気がします。

2000年代に入ってからアクション映画は一気にリアル志向になってしまったので、「リアルさとかどうでもいいから、派手に暴れる奴らを見てスカッとしたいんだよ!」とフラストレーションを溜めていた方も多いと思われます。したがって本作は「もう一度1980年代の筋肉アクション映画のようなものが観たい…」と渇望していた方にはお勧めできる作品ということになります。

まあ映画の見どころはBANGER!!!のコラムの中で十分書いたので、当方のブログではサントラ盤(=クリス・ベンステッドの劇伴)の魅力をきちんとご紹介していきたいと思います。

ベンステッドがガイ・リッチー作品の劇伴を作曲するようになったのは、2019年の『ジェントルメン』から。

The Gentlemen Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

しかし両者は同年の『アラジン』で既に顔合わせ済みでした。
この作品の作曲家はアラン・メンケンでしたが、ベンステッドはミュージック・エディターや追加音楽の作曲、編曲などを手掛けていました。
ベンステッドはその前にもディズニー映画の実写版『美女と野獣』(17)で全く同じ仕事を担当していたので、たぶんベンステッドはリッチーが選んだというよりも、ディズニー製作陣が起用した音楽制作スタッフで、『アラジン』での仕事を通してリッチーがベンステッドのことを気に入って、「今度は俺の映画で劇伴を作曲してみない?」と『ジェントルメン』に誘ったという流れだったのではないかと思われます。

Wrath of Man Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

『ジェントルメン』のときは既製曲を多めに使っていたので、ベンステッドの劇伴にはあまり関心が向かなかったのですが、『キャッシュトラック』(21)の重々しい劇伴を聴いたとき、「ガイ・リッチー映画でこんなシリアスな音楽を聴くのは珍しいな。『リボルバー』(05)以来か?」と思いました。

Operation Fortune Ruse de Guerre Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

The Covenant Original Motion Picture Soundtrack – amazon music

男の友情と”誓い”を哀愁の旋律で表現した『コヴェナント/約束の救出』(23)の劇伴もよかった。

シリアスものの劇伴で優れた手腕を披露したベンステッドではありましたが、『アンジェントルメン』では「マカロニウエスタン劇伴とジャズ劇伴」という異色の楽曲構成で特殊部隊&潜入工作員の活躍を盛り上げたのでした。

ベンステッドはどちらの劇伴もものすごく綿密にリサーチしていて、マカロニ劇伴のほうはギターや口笛、「ウッ!ハッ!」「オ~オ~オ~」という野太いコーラス、チェンバロ(だと思う)のような歯切れのよい撥弦楽器、各種パーカッション(さりげなく口琴の「びよ~ん」という音も入れてる)を使った「エンニオ・モリコーネ風のマカロニウエスタン劇伴」を作曲している。

一方ジャズ劇伴のほうは隠し味にツィンバロムを使っていると思しき楽曲がありまして、このあたりが『国際諜報局』(65)のジョン・バリーへのオマージュなのかなと思った次第です。
単に「007のバリーの劇伴」をなぞらえるのではなく、こういうシブ目の作品の手法も取り入れているあたりが実に巧い。

仮装パーティーのシーンで流れるノリノリのビッグバンド・ジャズ曲を聴くと、バリーの初期作『狂っちゃいねえぜ』(59)の雰囲気に近いものを感じます(エレキギターはベンベン鳴りませんが)。

「マカロニウェスタンとジャズ」という個性の強いサウンドを劇伴の中できちんと両立させているベンステッドの手腕も素晴らしい。

サントラ盤は全22曲で収録時間55分弱。

マージョリー(エイザ・ゴンザレス)が歌う「マック・ザ・ナイフ」と、ナチス高官のルアー(ティル・シュヴァイガー)が聴いていたショパンの「雨だれ」前奏曲第15番、『ダーティハリー』(71)から流用した”The School Bus”は未収録といった感じ。

前述のビッグバンド・ジャズ曲は全て収録しているし、そのほかの劇伴についても要所で流れる楽曲は大体収録されているので、「え~、あの場面の劇伴入ってないの?」という印象はなかったです。

メインテーマの旋律も明確だし、サントラをぶっ通しで聴いていてもダレ場がない構成になっていると思います。

『アンジェントルメン』オリジナル・サウンドトラック
音楽:クリス・ベンステッド
発売・販売元:Rambling RECORDS Inc.
品番:RBCP-3580
価格:2,970円(税込)
発売日:2025年4月2日

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