人付き合いが苦手なら、急がずゆっくり向き合っていけばいいじゃない、という話。『ラースと、その彼女』

本日はシュールでハートウォーミングな映画『ラースと、その彼女』(07)について。

ビクターのTさんから
「(この映画の)ライナーノーツを書いてみませんか?」というお話を頂いた時、
『ラース』についてあった知識といえば、
「極度にシャイな青年がリアルドール(いわゆるダッ○ワイフ)にフォーリンラブする話」で、
「第80回アカデミー賞の脚本賞にノミネートされた」という事くらいでした。

「リアルドールに云々」という所で、
ジョン・ウォーターズとかトッド・ソロンズ監督の映画のようなノリだったらちょっとなぁ、と構えていたのですが意外や意外。
この映画はマジメなテーマに取り組んだ心温まる作品だったのでした。
アカデミー賞ノミネートはダテじゃありません。

映画の中身は先に述べた通りです。
極端にシャイだが心優しい青年ラース(ライアン・ゴズリング)が、
リアルドールの”ビアンカ”を「僕のガールフレンドなんだ」と真顔で兄夫婦(ポール・シュナイダーとエミリー・モーティマー)に紹介した事から始まる、
田舎町のシュールでほんわかした日常を描いているのですが、
この何気ない描写がいいのです。

一般的にこういう奇妙な行動を起こす主人公が出てくると、
「彼の過去に何があったのか?」みたいな話になるわけですが、
この映画はそういう展開にはならない。
(”幼少期のトラウマが原因”という説明が多少ある程度)
セラピー大国のアメリカにしては珍しい展開といえるでしょう。
愛とか優しさの定義はいろいろありますが、
この映画で言わんとしているのは、
「相手を理解し、全てを受け入れる事が真の愛情であり優しさなのではないか」
という事なのではないでしょうかねぇ。
人付き合いが何かと苦痛になりがちな今の世の中、
早急に結果を求めるのではなくて、
波長の合いそうな人をゆっくりまったり見つけていけばいいじゃない。
そして相手の求めているものに気づいてあげればいいじゃない。
そんな映画です。

さてその奇妙な主人公をもっさり演じるライアン・ゴズリングも、
ビミョーに気持ち悪くて絶妙に愛らしい主人公を好演。
『完全犯罪クラブ』(02)の頃は何だかあまりパッとしない印象でしたが、
『ステイ』(05)のあたりから、
「口数が少なくて何を考えているか分からない男」という、
独自のキャラを確立した感じです。

あまり中身について語ってしまうと映画を観た時の感動が薄れてしまうので、
感想はこのへんで。詳しくは本編をご覧頂ければと思います。

本作の音楽を手掛けたのは、
プロデューサー/ギタリスト/テクスチャリストなど様々な肩書きを持つデヴィッド・トーン。
デヴィッド・シルヴィアンやミック・カーン、
デヴィッド・ボウイらのアルバムにギタリストとして参加しているので、
洋楽ファンにもおなじみかと。

今回のサントラでは、アコースティック・ギターを中心に、
ストリングス、ピアノ、クラリネットなどを重ね合わせた、
オーガニックな癒し系アンビエント・スコアを聴かせてくれています。
ノリ的にはジョン・ブライオンの『パンチドランク・ラブ』(02)とか、
『エターナル・サンシャイン』(04)の音楽に近い感じでしょうか。

映画本編同様、「つつましい優しさ」に満ちたサウンドが実に心地よいです。
就寝前に聴きたい一枚に(勝手に)認定。

国内盤はビクターエンタテインメントより発売中。
ジャケットデザインが輸入盤よりオシャレな感じになっておりますので、
個人的にオススメです。

『ラースと、その彼女』オリジナル・サウンドトラック
音楽:デヴィッド・トーン
品番:VICP-64640
定価:2,520円