先週末、仕事で東京に出張してきたので、オフの時間に恵比寿ガーデンシネマで
『インフォーマント!』(09)を観てきました。
いわゆる『インサイダー』(99)系の企業内部告発を扱った映画なんですが、こちらは
ブラック・コメディ仕立て。これが面白いのなんの。笑わせて頂きました。
マット・デイモン扮する主人公マーク・ウィテカーが”The Informant”(告発者)に
あたるのですが、病的なまでに嘘つきというか、あまりにも変人なので言動が全く
信用出来ないんですな。
ウィテカーが管理を任されているリジン(植物性食品添加物)製造工場でウィルス
が発生して、大損害が出たので何とかしろと副会長からせっつかれるわけですが、
「これは日本の企業スパイの仕業で、1000万ドル払えばやめてやると脅迫されま
した」とまずウソをつく(普通信じるかな?コレ)。
で、会社があっさり金を払ってくれるかと思ったら、捜査にFBIが介入してきたので、
今度は彼らに「いや実はウチの会社、違法な価格操作を行っているんですよ!」と
密告。何だかよく分からないけど、内部告発者になる事を決意。
そうかと思えば、会社から10万ドルの昇給を提示された事を理由に内部告発を
キャンセルしようとしたり、行動が行き当たりばったりなので現場はメチャクチャ。
でも本人は「僕は007の2倍頭がいいから、0014だね!」なーんて言いながら、
FBIから渡された盗聴器を嬉々として身につけて”にわか諜報員”ライフを満喫中。
この緊張感のなさに腹が立つか、笑ってしまうかでこの映画の評価が分かれる
ところでしょう(筆者は後者でした)。ま、実際こんなヤツが身近にいたらたまった
もんじゃありませんが。
この映画、ウィテカーの「心の声」がナレーション(というかモノローグ)で語られる
のですが、これがまた本筋と関係ないようなしょーもない事ばかり言ってるの。
マイレージの話とか、シロクマが自分の鼻を隠す話とか、ネクタイの話とか。普段
からこんな事ばっかり考えてるのかコイツは、と(いい意味で)呆れる。
愚直なまでに生真面目なFBI捜査官を演じたスコット・バクラもいい味出してました。
ウィテカーの場当たり的発言で振り回されちゃあ「もう他には嘘はないだろうな?」
とか「何で嘘をつくんだ?」と真顔で問い詰めるんですが、それが妙に笑える。
ある意味、観客の視点に一番近いキャラかもしれません。ツッコミ担当って所かな。
そして何よりこの映画の「笑い」の要素を増幅させてくれるのが、大御所マーヴィン・
ハムリッシュの軽妙なスコア。ソダーバーグ監督が『ウディ・アレンのバナナ』(71)を
観て、「やっぱりマーヴィンの音楽はいいなぁ。そうだ、『インフォーマント!』の音楽は
彼に頼もう!」と決めたそうです。この判断、大正解でした。聞けばハムリッシュは
本作でゴールデングローブ賞にノミネートされたそうですが、受賞は無理かな?
個人的には作曲賞を獲ってもいいんじゃないかと思うのですが。
で、その音楽というのが60-70年代コメディ風のゆるーい(でもオシャレな)ラウンジ
系スコア。これから一体どんなシットコムが始まるのか? ってな感じの音楽です。
およそ内部告発を扱った映画には不向きなスコアなんですが、これが見事なハマり
具合。ウィテカーが”にわか秘密諜報員”として活動する時の「007のテーマ」風の
レトロなギター・フレーズとか、ウィテカーのノーテンキな頭の中をそのまま表現した
ような軽い音楽なんですな。劇中、FBIが強制捜査に入るシーンがあるのですが、
その場面の音楽”The Raid”がまたとんでもなくノーテンキなんですよ。映画史上
最も緊張感のない強制捜査シーンだった気がする。脱力系の笑いを誘いました。
トドメは映画のラストに流れるシナトラ風のヴォーカル曲。タイトルはそのものズバリ
“Trust Me”(直訳:オレを信じろ!)。「信じられるわけないだろ!」という観客のツッ
コミが聞こえてきそうです。それを狙っているんでしょうけれども。
どこぞの総理大臣が「トラスト・ミー」と言ってしまったがために、ドツボにハマって
しまったのも記憶に新しいところですが、どうやらウィテカーといい某総理といい、
“Trust Me!”とか”Absolutely!”といった言葉を軽々しく使う人は、基本的に信用
出来ないものらしい。
そういう事を考えながらこの映画を観ると、単に企業告発ものの枠を越えて、日本人
にも大変興味深い内容になってくるのではないかと思います。人間観察ってやつ
ですかね。1回目の鑑賞時は字幕とセリフを追うので精一杯でしたが(この映画、
会話シーンが多いんです)、次に観る時は細かいところもしっかり見ようと思います。