この時期になると「2009年のなんたらベスト10」的な特集を目にする事が多いので、それじゃ今年観た映画のベスト5とかサントラベスト5とかやろうかな、と思ったのですが、「アンタのベスト5なんかどーでもいいよ」と言われそうな気がしたので急遽企画変更。今年観た映画の中でベストだと思った作品を1本選ばせて頂きます。
『3時10分、決断のとき』(07)
もうこれで決まり!初めて観た時、これが映画である事を忘れるほど感動した。必要最低限のセリフと抑制の効いた演技で、男同士の絆とか男の名誉、そして誇りとは何ぞやというテーマを真摯に描ききった、西部劇の傑作です。悪党だけども一本筋の通った生き方を貫くベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)がまた最高にカッコイイんだ、これが。
借金苦で家族関係が冷え切っている牧場主のダン・エヴァンス(クリスチャン・ベール)の悲壮感漂う姿も涙を誘います。ダンが一体何のために命を懸けてウェイドの護送任務に就いたのか、という動機が明かされる終盤の展開は男泣き必至。ダンの話を聞いたウェイドが、その男気に心を打たれて取る行動も泣かせる。こういう熱いドラマが、セリフの行間を読ませる見事なストーリーテリングで綴られていきます。
しかもこの映画、ムダな登場人物が一切出てこない。賞金稼ぎのピーター・フォンダとか、ウェイドの子分のベン・フォスター(例によって恐いです)、町医者のアラン・テュディック、ダンの妻のグレッチェン・モル、息子のローガン・ラーマン、バーの女主人ヴィネッサ・ショーに至るまで、皆一様にキャラが立っていて、彼らの生き様や人生観がさりげないセリフからもヒシヒシと伝わってくるのです。丁寧な脚本と、ジェームズ・マンゴールド監督の演出の賜物と言えるでしょう。マンゴールドが以前撮ったスタローンの『コップランド』(97)も西部劇っぽい話でしたね、そういえば。
そしてマルコ・ベルトラミの音楽が非常に素晴らしい。オーケストラにギター、ダルシマー、マウスハープ(『バウンド』(96)でジーナ・ガーションが口にくわえて「びよぉぉん♪」と弾いていたあの楽器)などを用いて作り上げた、ドライで男臭い感じのスコア。映画の終盤で流れる”Bible Study”の熱いメロディーは、聴いていて本気で目頭が熱くなります。サントラ・ファンを自認する方は是非ともサントラ盤を聴いて頂きたいと思います(ちなみにマルコさんは本作でアカデミー賞の最優秀作曲賞にノミネートされました)。
以前『ダイ・ハード4.0』(07)のサントラ用にマルコさんにインタビューした時、「『3:10 to Yuma』はすごくいい映画だから、日本で公開されたら是非観て欲しいな」と言っていたのですが、確かに作曲家本人が太鼓判を押すだけの事はある、素晴らしい作品でした。
この映画は『決断の3時10分』(57)のリメイクという事で、先頃オリジナル版を観てみたのですが、これに関してはリメイク版の方が遙かによく出来てました。「最近のハリウッド映画はリメイクと続編モノばっかりでダメだねー」と語る批評家(批評家”のような人”も含む)の方が結構いますが、そういうものの見方は実に了見が狭い、と言わざるを得ません。リメイクにも良質な作品はあるものなんです。食わず嫌いはいけません。
そういう意味でも、本作は「リメイク=駄作」という固定概念をブチ破る意義深い作品なんじゃないかな、と思います。