先週末に『ハート・ロッカー』(08)を観てきたのですが、いやー、噂に違わぬスゴイ映画だった。映画開始から終了まで、常に緊張感と不穏な空気を漂わせた究極の「神経衰弱映画」と言うべきか。見終わった後、ものすごく疲れました。ある意味、刺激的な映画体験だった言えるでしょう。
何がそんなに疲れるのかというと、物語の結末や登場人物の運命が全く読めず、一瞬たりとも気が抜けないから。爆弾はいつ爆発するか分からないし、映画開始早々「あのシーン」(ネタバレ回避のため詳しい描写は避けます)を見せられたら、誰が最後まで生き残るかも分からない。仮に誰かが命を落とすとしても、スター不在のキャスティングなので、誰がどのタイミングで死ぬか全く予想がつかない。しかも相手はテロリストなので、いつどこから(どんな方法で)襲ってくるかも分からない。この怖さはホラー映画に通じるものがありますな。ジェームズがワイヤーを引っ張ったら、地中に埋まった爆弾が5、6個ほどゴソッと出て来たシーンで背筋が凍りつきました。
映像の見せ方も秀逸。実際にはほんの一瞬の出来事であろう、爆弾が爆発した時の様子をスローモーションを駆使して見せる衝撃のオープニングとか、クローズアップとロングショットを巧みに使った爆弾解体シーンとか、だだっ広い砂漠のド真ん中で繰り広げられるテロリストとの狙撃戦(←見応えアリ)とか、神経がヒリヒリするような緊張感がたまりません。この異様なテンションは何と表現すればいいのでしょう。例えるなら『ディア・ハンター』(78)のロシアン・ルーレットのシーンを2時間ぶっ続けで見せられるような・・・そんな感じかな。
戦争映画にありがちな「生死を共にした仲間との友情」みたいな描写をばっさりカットしたキャスリン・ビグローの演出もドライでイカす。それでいて登場人物の心理を緻密に描写しているんだから、大したもんです。「危険な状況であればあるほど高揚感を覚えるアドレナリン・ジャンキー」のジェームズ二等軍曹を演じたジェレミー・レナーの虚無的な演技も真に迫っていてグッド。物静かであればあるほど、ジェームズの病的な一面が垣間見えてゾクッとします。
脇役キャラとしては、傭兵チームのリーダーを演じたレイフ・ファインズが一番の儲け役かも。テロリストのような格好で登場して、カフィーヤを外すとあの端正な顔が露わになる・・・というシーンがなかなか印象的。美男子好きで知られる(らしい)ビグロー監督の事だから、結構こだわってあのシーンを撮ったような気がする。『ストレンジ・デイズ/1999年12月31日』(95)以来のコラボと両者の変わらぬ友情にファン(筆者含む)は感涙でしょう。
音楽担当はマルコ・ベルトラミとバック・サンダースの2人。これがまた前衛的なサウンドというか、いわゆる「音響系」と呼ばれるタイプのスコアを書き下ろしています。ま、この手の映画でヒロイックなテーマ曲とかナラティブな音楽をつけるとドラマがウソ臭くなるので、正しい判断と言えるでしょう。マルコさんはプリペアード・ピアノを演奏。バック・サンダースのフリーキーなギターと共に、不吉で神経を逆なでするような音を鳴らしています。すすり泣くようなアルフ(Erhu=二胡)の音もインパクトあります。
それじゃあスコア単体として聴いても面白くないのかというと、そういう事はありません。一見、音響系のスコアと思わせつつ、よーく聴くとメイン・テーマの役割担うメロディーをちゃんと作ってます。サントラ盤でいうと12曲目の”The Way I am”がそれ。哀愁と虚無とがないまぜになったメロディーが素晴らしい。作曲賞ノミネートの決め手になったのは、多分このメイン・テーマ曲でしょう。
エンドクレジット直前で流れるアラビックなギターロックですが、あれはMinistryの”Khyber Pass”という曲でした。マルコさんのスコアじゃないからサントラ盤に収録されなかったと思われます。”The Way I am”から”Khyber Pass”への移行がスムーズだったので、てっきりスコアかと思いましたが。