リュック・ベッソン製作・原案、ピエール・モレル監督という『96時間』(08)のコンビで撮った作品ですが、どうもアメリカでの興行収入はイマイチだったようです。なんでかなー。そのへんのアメリカ製アクション映画より遙かによく出来てたと思うんですが。
同じアクション映画でも『96時間』とはベクトルがちょっと違う方向を向いているとはいえ、ノリは基本的にあのまんま。相変わらず演出にムダがなく、「ド派手なカーチェイス」、「肉体を駆使した超絶アクション」、「スタイリッシュなガンファイト」というアクション映画に欠かせない3つの要素が95分の上映時間にぎゅぎゅーっと凝縮されてます。高いテンションを維持したまま、ラストまで一気に突っ走るスピード感が最高に気持ちいい。
狭い空間(マズい中華料理屋とかマネキン工場、安アパートの屋内)での銃撃戦も見せ方が実にカッコイイ。ま、香港映画のパクリと言われればそれまでですが、作り手側もそれを意識してやっているんだろうから、あれこれケチをつけるのは野暮ってもんです。
こういう畳みかけるような展開のアクション映画だと、中には「人物描写が雑」とか「ドラマの書き込みが足りない」と言う人もいるかもしれませんが、ワックスはワックスなりにリースの事を考えてやっている事は理解できるし、彼が切れ者で、ただの「粗暴で好戦的なオッサン」でない事も読み取れるでしょう。あんまりベタなセリフとかクドい演出でことさら”相棒”っぷりを見せつけられても話の流れがグダグダになるので、このくらいにしておいて正解でしょう。
こんな主役コンビなので、『TAXi』シリーズみたいなアクション・コメディ風のお話になるのかなーと思いきや、中盤からはシリアスかつヘヴィな展開になってきて、なかなか見応えがありました。「人生のひきがねを引け」というキャッチコピーはこの事だったのか、と。マイヤーズの好演が光ります。これで実生活で酒を飲んで暴れなけりゃ最高だったんですが(また空港で酔って暴れて警察のご厄介になったそうで・・・)。アル中からの更正を心より願っております。
それにしても、トラボルタのスター・パワーは素晴らしいなぁ。『サブウェイ123 激突』(09)の薄毛の地下鉄乗っ取り犯も実にスゴ味が効いてましたが、今回の大胆なスキンヘッドの特別捜査官役も強烈。しかも御年56歳の割に動く動く。ほとんどのアクション・シーンでちゃんと顔も映っていたから、あれは代役のスタントマンじゃなくて本人がやってたんだろうな。あの屋根伝いに犯人を追いかけるシーンとか、車をハコ乗りしてミサイルランチャーを構えるカーチェイス・シーンとか。「Royale with Cheese」とか言いながらセルフ・パロディ的にチーズバーガーをぱくつく姿も愛嬌があってグッド。
音楽担当は『ドラゴン・キングダム』(08)のデヴィッド・バックリー。主にハリー・グレッグソン=ウィリアムズ作品の追加音楽を担当していた人だけあって、サウンドもトニー・スコット作品の音楽を担当した時のHGWと似たような感じ。ワックスが群がるチンピラをワックス拳で瞬殺するシーンの”Official Business”とか、香港映画の如きガンファイト・シーンの”Wax’s Waltz”のデジタルロックなスコアはほぼHGWの『マイ・ボディガード』(04)とか『サブウェイ123』のノリだし。
テーマ曲らしいメロディーが見当たらないので、その辺に物足りなさを感じる方もいるかもしれませんが、何しろスピーディーで展開が忙しい映画なので、たぶんテーマ曲を聴かせる時間的余裕もなかったのだと思います。個人的にはこういうテクノ・エレクトロニカ系のスコアも結構好きです、ハイ。
ちなみにジャケット写真ではマイヤーズの運転する車にトラボルタがハコ乗りしておりますが、本編では二人で別行動を取っていたので、カーチェイスの場面で車を運転していたのはCIA(多分)の渋いオジサンでした。
あと、ケリー・プレストンがカメオ出演しているのはパンフにも書いてありましたが、リュック・ベッソンもあるシーンで一瞬だけ顔を出してます。ヒントは「車から降りた男」。未見の方は是非ベッソンを探してみて下さい。