この前の先行上映の時に劇場が満員で泣く泣く断念した『インセプション』(10)を観てきました。
いやー見応えのある映画でした。見終わった後に「ううーむ」と唸ってしまうような、奥が深くて重厚な内容。
こういう映画は予備知識を極力ゼロにして観た方が断然面白いので、中身について詳しい事はあまり書かない事にします。個人的に感銘を受けた点などをちょっとだけご紹介しようかなと。
まず、予告編やCMで既に流れている驚愕のヴィジュアルですが、単に奇抜なだけじゃなくて、全てにキチンと意味があるのが素晴らしいです。なぜ公道を列車が走ってくるのか?なぜホテルの部屋が無重力状態になるのか?高層ビル街が折りたたまれるのはなぜか?これら全てに納得のいく意味づけがされているし、必然性のあるものとして描かれているのが秀逸。深層心理世界のヴィジュアルが無意味に奇抜な印象だった『ザ・セル』(00)とはここら辺が違う。
必然性のあるヴィジュアル作りと理路整然とした脚本は、やっぱりクリストファー・ノーランのカラーが反映されているのでしょう。潜在意識、深層心理、トラウマとの対峙、強迫観念などなど、この人はデビュー作『フォロウィング』(98)の頃からテーマが一貫していますが、今回はその集大成的な作品と言ってよいかと。結構好き嫌いが分かれそうな監督という気もしますが、僕はこの人の作風が肌に合うみたいです。『インソムニア』(02)も好きな作品だし、テーマにも毎回共感出来るので。
『ダークシティ』(98)とか『バニラ・スカイ』(01:元ネタの『オープン・ユア・アイズ』でも可)、『うる星やつら2 ビューティフル・ドリーマー』(84)が好きな人なら、『インセプション』の世界にどっぷりハマれるでしょう。あとは昔FM-TOWNSで発売されたゲームソフト『サイキックディテクティヴシリーズ』の世界観が好きな人(筆者含む)にもオススメかも。
音楽担当はハンス・ジマー。今回も『ダークナイト』(08)の流れを汲むミニマル・ミュージック系のスコアです。『ダークナイト』もシブい音楽でしたが、今回は『ダークナイト』からヒロイックな主題を取り除いた感じのサウンドなので、相当シブいスコアに仕上がってます。
しかしながら、重低音の響きが物凄く、管弦楽も音の厚みがなかなか迫力があって聴き応えあり。夢と現実の境界線が曖昧になった世界を、アンビエント・スコアで表現するあたりも流石。「新しい音」を探求する現在進行形のジマー・サウンドが楽しめます。
そして今回のサウンドトラックで特筆すべき点は、あのジョニー・マーをギタリストに迎えている事。80年代にシンセ・オペレーターとして頭角を現したジマーと、ザ・スミスの技巧派ギタリスト・マーの共演が実現するとは・・・(涙目)。いやー長生きはするもんだ。「あぁ、このギターのフレーズをマーが弾いているんだなー」と思いながらサントラを聴くと、非常に感慨深いものがあります。CD7曲目の”Mombasa”あたりがリスナー人気が高そう。
ちなみに追加音楽は『シャーロック・ホームズ』(09)や『ダークナイト』でもコラボ済みのローン・バルフ。名字の綴りは”Balfe”ですが、どうも「バルフェ」ではなく「バルフ」と発音する様子。