「見ている人は見ているけど、そうでない人は全く見ていない」
『LOST』の人気の度合いをひとことで表すと、何かこんな感じのような気がする。「1シーズン終わっても肝心の謎が全く解明されない」という構成は、全ての物事において「過程」よりも「答え」を真っ先に知りたがる若い世代にはキツイものがあるのでしょう。シーズン1から話がずっと続いているので、過去のシーズンをスキップして「途中参加」出来ない作りになっているのも敷居を高くしている要因かな。
メディアが喜んで取り上げそうな「小ぎれいなイケメン」がいないのも影響しているかもしれない。島に飛行機が墜落した人たちの話ですから、小ぎれいな身なりのわけがないんですが。イケメンがいないから見ない、という姿勢もどうかと思いますけど(ソーヤーとかカッコイイと思うんだけどな・・・ダメですか?)。
てっとり早く一般ウケを狙うなら、『24 -TWENTY FOUR-』みたいにお笑い芸人の中から「LOST芸人」みたいな人が出てくれば話題になるのかもしれませんが、ジャック・バウアーのマネをする芸人はいても、ジャック・シェパードのマネをする芸人は皆無。ま、このドラマは扱うテーマが重いので、お笑いネタには不向きではあるのですが。もっとも、『LOST』のファン(筆者含む)はそんな薄っぺらい方法でドラマが話題になっても嬉しくないだろうから、結局今ぐらいの人気がちょうどいいのかな、と思ったりもします。
で、今回はシーズン5についてなのですが、前シーズンでせっかく島から脱出した「オーシャニック6」がまた島に戻るという(ある意味)衝撃の展開。「また戻るのかよ!?」とツッコミを入れた人も少なくないはず。そのうえ今回はタイムトラベルの要素が絡んでくるものだから、ちゃんと話の辻褄が合うのかなと心配になったのですが、結構話がきちんと繋がっているのが凄い。最初からこうなる事を想定して脚本を書いていたのか、物語が進んでいくのと同時に脚本を書き換えていったのか分かりませんが、大したもんです。ま、多少こじつけっぽいエピソードもございますが。
しかし一番驚いたのが、これまで姿を見せなかったジェイコブ役にキャスティングされたのがマーク・ペルグリノだったという事実。『マルホランド・ドライブ』(01)で胡散臭い殺し屋ジョーを演じ、『ツイステッド』(04)でアシュレイ・ジャッド演じる女デカの(またもや)胡散臭い元カレを演じていたあの人がジェイコブ役?と違和感ありあり。『LOST』では「黒服の男」というキャラクターが”邪悪な存在”という位置づけになっているので、それと対立するジェイコブは”善”の存在という事になると思うのですが、ペルグリノという役者の個性を考えると、100%善人ってわけでもないんじゃないか、といろいろ勘ぐってしまう自分がいます。ファイナルシーズンでどうなるかが見モノですね。
マイケル・ジアッキノの音楽もこれまで通り全編フルオケ。オスカーを受賞した『カールじいさんの空飛ぶ家』(09)や『Mr.インクレディブル』(04)など、活劇調のスコアが人気のジアッキノですが、『LOST』では一貫してアンダースコア的な曲作りをしています。活劇タッチの作風を封印して、シリアスドラマに真っ正面から取り組む「ドラマ派映画音楽家」としての彼の側面が垣間見える貴重なシリーズと言えるでしょう。
ちなみにジアッキノは、スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』(08)のハリウッドリメイク『LET ME IN』(10)の音楽担当に抜擢されました。多分、音楽の雰囲気としては『LOST』のようなスコアになるはずで、そういう意味では今回のシーズン5のサントラは、『LET ME IN』の音楽の方向性を探る興味深いアルバムに仕上がっているのではないかなーと思います。
サントラ盤はランブリング・レコーズより発売中。
余談ですがこのシリーズのサントラ盤、英語の曲タイトルで結構遊んでおりまして、今回も”Alex in Chains”(ロックバンド”Alice in Chains”のもじり)、”I Hear Dead People”(映画『シックス・センス』の有名セリフのもじり)、”For Love of the Dame”(映画”For Love of the Game”のもじり?)などなど、「分かるヤツだけ笑ってくれ」的なお遊び曲タイトルがいくつかあります。興味のある方は元ネタを探ってみてはいかがでしょうか。
『LOST シーズン5』オリジナル・TVサウンドトラック
音楽:マイケル・ジアッキノ
品番:GNCE-7074
定価:2,625円