アメリカでいつの間にかひっそりと公開されて、日本で劇場公開される事もなく、これまたいつの間にかDVD化されていた映画『ダウト 偽りの代償』(09)を借りて見てみました。
ピーター・ハイアムズ監督×マイケル・ダグラスの『密殺集団』(83)コンビによる、フリッツ・ラング監督作『条理ある疑いの彼方に』(56)のリメイクという何ともシブい映画です。リメイク作品の選択眼とか着眼点はなかなかいいと思うのですが、いかんせん地味。日本で劇場未公開だったのも何となく分かるような気がする。
マイケル・ダグラスが演じるのは百戦錬磨の辣腕検事の役。で、どうもこの検事が証拠を捏造して被告人を刑務所送りにしているらしいと睨んだ野心家のジャーナリストが、自分に無実の罪が降りかかるような巧妙な殺人事件をデッチ上げて検事を罠にかけようと画策するのだけど、コトはそう思い通りには行かず・・・というストーリー。あんまり書いてしまうとネタバレになるのでこのへんにしておきます。
細かいところで多少雑な部分や「こんなんでいいの?」と思う部分もありますが、まぁDVDレンタルならそこそこ楽しめるレベルかな。サブタイになっている「偽りの代償」を誰が払う事になるのかがミソ。『ヤング・ブラッド』(01)とか『サウンド・オブ・サンダー』(04)とか、近年ロクな映画を撮っていないハイアムズにしては、割と安定した演出&画作りを見せてくれてます。相変わらず妙に室内の映像が暗いシーンがいくつかありましたが。
それにしても、「検察が証拠を捏造する」という題材が何ともタイムリーですな。だからこの時期にDVD化したのか?『密殺集団』の時とは真逆の役柄を演じたダグラスも相変わらず慇懃な感じでいい味出してます(クレジットは”and Michael Douglas”なので、主演ではなく助演)。
残念なのは、主演俳優に華がない事。ジェシー・メトカーフ(『デスパレートな妻たち』に出てるらしいけど、このドラマは見てないので分かりません)の顔立ちがどう見ても「野心家の敏腕ジャーナリスト」に見えない。ダグラス相手に頭脳戦を仕掛けるには役不足というか、スターパワーが足りない感じ。これが『プリズン・ブレイク』のウェントワース・ミラーとか『HEROES』のマイロ・ヴィンティミリアとか『FRINGE』のジョシュア・ジャクソンあたりだったら、もうちょっと印象が違ったかもしれないのですが。
予想外によかったのが、大御所デヴィッド・シャイアの音楽。70年代サスペンス映画のようなレトロな感じのスコアで、これがなかなかカッコイイのです。特に映画の冒頭、RKO(原作『条理ある疑いの彼方に』を配給した映画会社)のロゴが出た後に流れるオープニングの曲が秀逸。ある意味、ここがこの映画の一番のハイライトだったかもしれない(笑)。『ゾディアック』(07)で奇跡の復活を果たしたシャイアですが、こういう古風なテイストのスコアを必要とする映画ではまだまだイケるんじゃないかと思います。
そういえば『ゾディアック』についてまだ書いてなかったので、そのうち何か書きます。ライナーノーツも担当した事だし。