うーーん、なかなか見応えのある映画だった。
映画秘宝の紹介記事でなかなか高評価だったので、『トレイター 大国の敵』(08)のDVDを借りて観てみたのですが、これが隠れた傑作というか力作。俳優の演技、脚本、カメラワーク、どれも一級品のサスペンス映画でございました。
秘宝の記事にも書いてあったけど、キャストが地味だからってこういうよく出来た映画をDVDスルーしちゃいかんだろ、と本気で思った。コアな映画ファンにきちんと情報が伝わるような宣伝をして、単館上映とか全国順次公開みたいな感じでいいから劇場公開してほしかった。
こういった映画は予備知識ゼロで楽しんで頂きたいので、詳しいストーリーは割愛。ワケあり爆弾技術者のサミール(ドン・チードル)を巡って、アメリカ国内での自爆テロを画策する中東のテロ組織と、それを阻止しようと奔走するFBI、何か情報を握っていそうなCIAが熾烈な情報戦を繰り広げるというお話。
序盤のサミールとテロ組織の一員オマール(『バンテージ・ポイント』(08)のサイード・タグマウイ)のやり取りも結構スリリングなんですが、CIAエージェント役のジェフ・ダニエルズが登場してから物語が更に盛り上がる。切れ者FBIエージェント役のガイ・ピアースがどう出るのかとか、その部下で血の気の多そうなニール・マクドノーが暴走するんじゃないのかとか、近年すっかり胡散臭い役がハマってきたダニエルズが何かやらかすんじゃないかとか、クセ者揃いのキャストゆえに俳優からキャラクターの行動が読めない。ここが優れたサスペンス映画たる所以ではないかと思う。
悲壮感を漂わせたドン・チードルの演技も絶品です。『クロッシング』(08)、『ホテル・ルワンダ』(04)に続いて、極限状況下で何とか精神の均衡を保っている悲劇の男を熱演。こういう役をデンゼル・ワシントンが演じると物語がウソくさくなる危険性があるので、この映画の場合チードルで大正解。製作を兼任しているだけの事はあります。
特殊部隊とかがテロリストを一網打尽にしてアメリカ万歳!と叫ぶ偽善的な映画が作られる一方で、こういうイスラムの人々を真摯に見据えた硬派な映画も作れてしまうのが、アメリカという国の面白いところ。これも表現の自由、言論の自由というやつなのでしょうか。
・・・というわけで、年間映画を20本以上観る人だったら、この映画のシブい面白さを分かって頂けるのではないかと思います。そういう人なら、このキャストも「地味」とは思わず「なかなか豪華な顔ぶれじゃない?」と思ってくれるはず。個人的にかなりオススメ。本編が気になる方は、是非DVDを借りてみて下さい。
音楽は『ツォツィ』(05)のマーク・キリアン。イエメンが舞台(実際の撮影はモロッコ)となっている映画のロケーションを反映させて、オーケストラにウードやナーイ、中東・アジア由来のパーカッションとシンセ・サウンドを組み合わせたエキゾティックなスコアを書き下ろしています。哀愁のエレクトリック・ヴァイオリン・ソロも、チードルの悲壮感を漂わせた表情と絶妙にマッチ。『ワールド・オブ・ライズ』とかに比べると若干メロディーが弱い気もしますが、僕はこういう音楽も結構好きです。
ちなみにこの映画、監督・脚本は『デイ・アフター・トゥモロー』(04)のジェフリー・ナクマノフですが、ストーリー原案は何とあのスティーヴ・マーティンです。同姓同名の別人かと思って調べたら、何とご本人でした。
マーティンの意外な一面(意外な才能?)を垣間見たような気がする。