いやー面白かったなぁ。リドリー兄貴に比べると「映像テクニックだけで中身が空っぽ」と言われる事の多いトニー・スコットですが、この『アンストッパブル』(10)は非常によく出来てます。トニー・スコット好きとしては、この映画が高評価で嬉しい限り。
映画の内容は「有毒物質を積んだまま無人で暴走する列車を止めろ!」というシンプル極まりない筋立てなのですが、そのぶん日常的に映画を見ないライトな観客層にも面白さをアピールする要素があるし、話が余計な方向に脱線しないので、展開がスピーディーで無駄がないのです。
例によってトニー・スコット名物のブン回すようなカメラワークとかガチャガチャした編集もあるのですが、『ドミノ』(05)とか前回の『サブウェイ123/激突』(09)に比べると、かなりケレン味を抑えた映像になってました。ホンモノの列車やヘリを使ったアクションがウリの映画だから、リアルな質感を出すためにあまり映像に手を加えないようにしたものと思われます。
アクション映画としても一級品ですが、実は人間ドラマもよく描けてます。映画の前半でベテラン機関士のデンゼルと新米車掌のクリス・パインの互いに相容れない状況や、プライベートで抱えている問題(前者は親子関係、後者は妻との不仲)を描いておいて、「暴走列車を止める」というミッションを通じて絆が深まり、サエない男が誇りを取り戻していく過程をテンポよく描写。現場で働く男たちのプロフェッショナルな姿に、観客も自然と感情移入してしまう作りになっている。強いて言うなら、全世界の離婚されたオトーサンの共感を呼んだ『96時間』(08)のノリに近い。
事故の対処にあたる現場のスタッフが総じて頼りになる人ばかりなのに対して、「会社の重役が無能」って設定も(お約束だけど)観客の共感を呼ぶ重要なポイントになってます。キャストではクリス・パインの顔立ちがなかなか「労働者階級の若者」っぽくていい感じでしたが、意外な活躍を見せたサングラス姿の溶接主任ネッドもいい味を出してます。このルー・テンプルという役者、『ドミノ』とか『テキサス・チェーンソー:ビギニング』(06)に出ていたみたいなので、気になる方はチェックしてみてはいかがでしょうか。
この映画、当初は予算の問題&『サブウェイ123』が中コケしたせいで製作中止の危機に見舞われた事もありましたが(デンゼルがギャラを抑える事で製作にゴーサインが出たとか)、これだけ本編がよく出来ていると「作って正解だったねぇ」という感じ。むしろ「『サブウェイ123』よりこっちを先に撮った方がよかったんじゃないの?」と思ったりもするわけですが、あの映画でトニーが列車パニック・アクションの撮り方を習得したのだと思えば、『サブウェイ123』も決して無駄な映画ではなかったのではないかと。
音楽はトニー・スコット映画の常連ハリー・グレッグソン=ウィリアムズ。いつもの打ち込みを多用したリズム重視のエレクトロ・スコアを鳴らしてくれてます。暴走列車の音響効果に勝るとも劣らない、強烈なテクノビートによる爆音系のスコア。特に今回はヘイター・ペレイラとトニー・モラレスがいつも以上にエッジィなギター・リフをかき鳴らしておりまして、アルバム13曲目の”The Stanton Curve”(映画終盤のスタントン大曲りのシーンでかかる曲)に至っては、もはやインダストリアル・ロックとかミクスチャー・ロックのノリ。これがなかなかアツい。一部のギターリフが何となく『ダークナイト』(08)の”Why So Serious”を連想させますが、こっちの方がもっとアッパーな感じかな。
メインテーマもしっかりしたメロディーを聞かせてくれるし、HGW好きなら買って損なしと思われます。
ちなみにこの映画、エンドクレジットを確認したら『エイリアンズ vs. プレデター』(07)からブライアン・タイラーのスコア”NATIONAL GUARD PART 1″、”POWER STRUGGLE”、”PREDATOR ARRIVAL”を流用してました。恐らくテンプ・トラックで使ったスコアをそのまま本編に使ってしまったのでしょう。『アンストッパブル』のサントラを自前でコンプリートしたい方は、『エイリアンズ vs. プレデターズ』のスコア盤も併せてどうぞ。まぁ『AVP2』は映画としてはかなりアレだけど。