公開前にあちこちから断片的に得た情報で、
恐らく『ゾディアック』(07)の流れを汲む会話劇になるのだろうなーとは思っていたのですが、
この映画の会話のテンションというか緊張感は、
どちらかというと舞台劇のそれに近い印象でした。
映画で言うとジャック・レモンとアル・パチーノが共演した『摩天楼を夢見て』(92)のノリ。
パンフの資料によると、フィンチャーは役者を個別にこっそり呼んで、
「この場面ではお前の言っている事の方が正しいから、絶対に譲るな」と焚きつけてから撮影に入ったそうなので、
役者同士の言葉のやりとりの迫力が半端じゃない。
「自分の方が正しい」という絶対的な自信のもと、
双方がものすごい勢いで主張しまくる。
どちらも絶対に折れない。
実際に日本の職場であんな議論をしたら、人間関係が崩壊しそうです。
さすがディベート大国アメリカ。
いろんな意味でリアルなアメリカ文化を疑似体験出来る映画かもしれません。
それが面白いかどうかは別として、ですが。
『ゾディアック』の撮影時にマーク・ラファロが、
「フィンチャーはカメラを回しっぱなしにするから、トイレに行く時間もなかった」と言ってましたが、
今回も1シーンの撮影に90テイクとか200テイクなんて事もザラだったとか。
このテイク数は拷問に近いですね…。
フィンチャーのこだわりも凄いが、それに応える俳優も凄い。
決して楽しい内容の映画ではありませんが、
テンションの高い俳優の演技は一見の価値ありでしょう。
とはいえ、僕の場合この映画の内容がどうのというよりも、
トレント・レズナーとアッティカス・ロスの音楽に一番関心があったわけでして。
先にサントラを聴いた時には「この曲、映画本編に合うのか?」と思ったものの、
いざ本編を見たら見事にハマっているではありませんか。
映画のオープニングクレジットに流れる”Hand Covers Bruise”で、
メインテーマ(というかザッカーバーグのテーマ)が提示されるわけですが、
普通の映画音楽家だったらオーソドックスなピアノ曲にしそうなところを、
「ピアノ+ノイズ・ミュージック+アンビエント・サウンド」
という音楽にしてしまうところがさすがレズナーといった感じ。
“Hand Covers Bruise”でザッカーバーグの孤独感と虚無感を描いた後は、
80年代テクノポップ調の”In Motion”や、
ノイジーなギターをフィーチャーした”A Familiar Taste”を大音量で流して、
「才気走った若者の怒りと苛立ち」を巧みに表現。
無機質なビートと左脳を刺激するエッジィなエレクトロ・サウンドが、
いまどきの”ネット世代の若者”の精神世界をよく捉えているような気がするのですが、
いかがでしょう。
サントラで最も異彩を放っていたのが、
ウィンクルボス兄弟のボートレースのシーンで使われた”In The Hall of The Mountain King”(グリーグのペールギュント第1組曲 「山の魔王の宮殿にて」のカヴァー)でした。
この場面はフィンチャーの映像美と、
レズナー流にアレンジされたクラシック音楽が一度に楽しめる興味深いシーンになってます。
ある意味この映画のハイライトと言えるでしょう(サントラ的視点で)。
サントラ盤は比較的お安い値段で購入できますが、
レズナーのレーベル”NULL”で5曲フリーダウンロード出来るようになってます。
やけにサントラ盤が安かったのはこのためだったようです。
僕がこのアルバムをAmazonでオーダーした時は、確か800円くらいだったような記憶があります。
買おうかどうしようか悩んでいる方は、
とりあえずこちらを試してみてはいかがでしょうか。
メインテーマがしっかりしている分、
ダスト・ブラザーズの『ファイト・クラブ』(99)よりも、
映画音楽として形になっている音楽ではないかと思います。
好き嫌いが分かれそうな音楽なので、
アカデミー賞の作曲賞が獲れるかどうかは微妙な線ですが、
サントラ愛好家なら押さえておいて損はない一枚です。
(とか何とか言ってたら、作曲賞受賞しちゃったもんなぁ…)
ちなみに僕の友人は、
『ソーシャル・ネットワーク』のサントラ盤を
「左脳を休めるのにいい感じの”朝トランス”用音楽」と表現してましたが、
彼女もまたITビジネスの最前線でお仕事している人でした。
そういう方面で活躍している人たちの感性にフィットするサウンドなのかもしれません。