地震のニュースとか東電の会見ばかり見ていると、ストレスが溜まって精神衛生上とてもよくないので、気分転換にザ・シネマで放送中の『セイント』(97)を久々に見てみました。近年すっかりでっぷりして顔がデカくなってしまったヴァル・キルマーが、まだギリギリ二枚目役を演じられた頃の映画。
内容はまぁ可もなく不可もなく、ソツなくまとまったハーレクイン風ロマンティック・アクション映画といったところでしょうか。エマ・ラッセル博士役のエリザベス・シューが最高にカワイイので、つい最後まで見てしまいましたが。
この映画のどの辺がハーレクイン風かというと、物語のキーになる低温核融合の研究者(=ラッセル博士)が若くて美人、しかも少女趣味(詩人のシェリーがお気に入り)で病弱(心臓の持病あり)という設定。ほとんど少女マンガの世界。映画の序盤にラッセル博士がオックスフォード大学で低温核融合の講義をするシーンがあるのですが、目をキラキラと輝かせながら低温核融合の可能性をスピーチする姿は、何かこう、グッと来ますな。カワイイです。ドラマの展開がハーレクイン風でもこれなら許せます。・・・というか全然OK!
・・・とまぁ映画本編も結構楽しませて頂いたのですが、どうにも気になる点がひとつ。劇中の音楽で、旅行者に化けたサイモン(ヴァル・キルマー)のヘッドホンからデヴィッド・ボウイの”Dead Man Walking (Danny Saber Dance Mix)”がほんの数秒とか、イリヤ・トレティアック(ヴァレリー・ニコライエフ)一味のカーステレオからMOBYの”Oil 1″やケミカル・ブラザースの”Setting Sun (Instrumental)”がブツ切りで数秒とか、既製曲の使い方が何かヘタなのです。「別にここでこの曲使わなくても・・・」みたいな使われ方をしているのがミョーに気になる。
この映画、テクノ系アーティストの既製曲をコンパイルした「ヴォーカル盤」とグレアム・レヴェルの「スコア盤」の2種類がリリースになったのですが、僕が思うにプロデューサーだかレコード会社側から「この映画のサントラはテクノ系のコンピにしたいから、映画の中でこれこれの曲を使え」と要求されたのではないかと。
でも監督のフィリップ・ノイスは『デッド・カーム/戦慄の航海』(89)で組んで以来レヴェルがお気に入りだったので、出来れば歌モノは使わずレヴェルのスコア一本で行きたかった。ところがお偉いさんが圧力をかけたものだから、仕方なく音楽スーパーバイザーが要求された曲を無理矢理映画の中で使った結果、こういうビミョーな使われ方になってしまった・・・のではないかと思ってしまうのですが、本当のところはどうだったんだろう。
この時期はU2のアダム・クレイトン&ラリー・ミューレンがリミックスした”Theme from Mission: Impossible”とか、MOBYがリミックスした”James Bond Theme”とか、「TVシリーズのテーマ曲をクラブミュージック系アーティストがカヴァー」みたいな企画が流行ったので、多分『セイント』もその線を狙ったのでしょう。この映画ではOrbitalがオリジナルのTVシリーズ(『セイント 天国野郎』)のテーマ曲をリミックスしています。
というわけで、既製曲は使い方がイマイチなのですが、グレアム・レヴェルのスコアは素晴らしい出来。レヴェルといえば元SPKで、サンプリングを駆使したアクの強いスコアを作る人ですが、この映画ではハーレクイン調のドラマ展開にマッチした、ジョン・バリー風のメロディアスな音楽を書いてます。この人にこんな一面があったとは。映画のメインタイトルで流れるテーマ曲もいいけど、サイモンとエマのアツアツなシーンで流れる「愛のテーマ」が絶品。恐らくレヴェルのキャリアの中でも最高傑作に位置するのではないかと思います。
廃盤となった今となっては入手はちと困難かもしれませんが、レヴェルのスコア盤を見かけたら間違いなく「買い」です。オススメ。
ちなみにエンドクレジットで流れるのは、Duran Duranの”Out of My Mind”。
この曲は映画の雰囲気と合っていてよかったと思います。