聞き応えアリ。アレクサンドル・デスプラによる『ゴーストライター』の音楽

全国順次公開になっていたロマン・ポランスキー監督作『ゴーストライター』(10)。
先週やっと見て来られました。

前評判に違わぬ見応えのある映画でした。
「英国首相の秘密を知ってしまったゴーストライターの身に危険が迫る」というプロットもよくある話だし、
奇をてらった演出もしていないのだけれど、
最後までスリルと面白さが持続する見事な語り口に感服致しました。

緊迫した状況でもウィットに富んだセリフを交わす粋なキャラクターと脚本。
終始落ち着いた動きで見せるカメラワーク。
曇天が印象的な不吉で寒々とした映像。
小道具の使い方の巧さ(特にカーナビ)。
情報を小出しにしつつ、終盤で一気に真相を解き明かす”焦らし”のテクニック。

もう、全てが職人技。
今どきのサスペンス映画から失われつつある、
「基本に忠実な面白さ」が凝縮された作品と言えるでしょう。

こういう映画は予備知識ゼロで見に行った方が面白いと思うので、
本編については割愛。
ここからは音楽について書かせて頂きます。

 

音楽を担当したのは売れっ子のアレクサンドル・デスプラ。
僕は本編を見る前に輸入版サントラを買って何度も聴いていたのですが、
実際に本編を見たら予想以上に音楽と映像がマッチしていて、
思わず「ううむ、これは凄い」と唸ってしまいました。

日本盤のライナーノーツにどんな事が書いてあるか分かりませんが、
このデスプラのスコアで最も印象に残るのが、
冒頭のメインテーマで登場する掠れたフルートの音。
ブックレットには”Singing Flute”とクレジットされているのですが、
これはいわゆる発声奏法(グロウル)と呼ばれるものの事だと思います。
フルートを吹く際に同時に声を出す事でハウリングを発生させる特殊な演奏法で、
ジェスロ・タルとか弊社のチャーリー・デシャントさんも、
自身のアルバムでこういう奏法を披露する事があります。

で、この映画でなぜこのような奏法を使っているかというと、
通常演奏と同時に声を出すことにより生じた”差音”で、
“ゴースト”という影の存在をほのめかしているわけです。
いやこれは見事なアイデアですよ!
…とまぁ、これはワタクシの推測でしかありませんが、
劇中でも”ゴースト”(ユアン・マクレガー)の登場シーンの大半でこのテーマ曲が流れるので、
恐らくそういう解釈で合っていると思います。

この手法を別にしても、
低音域をウネウネとうねるクラリネットとか、
デスプラの音楽に欠かせないハープやグロッケンシュピール(orチェレスタ)のループ音、
気怠いミュート・トランペット、
フルートの音が際立つオーケストラ・アレンジなどなど、
作曲者の個性が全面に出た面白いサウンドを全編で聞かせてくれます。
森の中のカーチェイス・シーンで流れる”In The Woods”のスネアドラムも、
映像に絶妙なリズム感を与えていて面白い。
こういうスコア、ハリウッド資本のサスペンス映画では最近聞けなくなりました。
細部にわたって計算し尽くされた楽曲構成になっていて、
クライマックスの音楽にもシビれました。

とにかく素晴らしい音楽なので、
サントラ・ファンの方は、是非一度聞いみて頂きたいアルバムです。
映画本編同様にオススメ。

 

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