オリジナルのフランス映画『すべて彼女のために (Pour Elle)』(08)が上映時間96分なのに対して、リメイク版の『スリーデイズ』(10)は134分。
この時点で何だか嫌な予感はしたのですが、本編を観てみたら、やっぱりこれはオリジナル版の方がよく出来てるなー、という印象でした。
リメイク版の夫役はラッセル・クロウなわけですが、どうもこのキャスティングがアダになった感じ。オリジナル版のヴァンサン・ランドンはいかにも「普通の中年男」といった風体で、そんなフツーの男が妻を脱獄させようと犯罪に手を染めていく姿にハラハラしたわけですが、いかんせんクロウは逞しすぎた。スリリングなシチュエーションも「クロウだったらこの程度のピンチは何ともないだろうなぁ」と安心して見られてしまうのです。
あと、これは好みの問題だと思いますが、やはりエリザベス・バンクスよりもオリジナル版で悲劇の妻を演じたダイアン・クルーガーの方が魅力の点で勝っているような気が。
オリジナル版でクルーガーの演じた妻のキャラクターには、自分の身に起きた悲劇を甘んじて受け入れてしまうような薄幸さがありましたが、どうもリメイク版の妻は気丈かつヒステリックな性格らしく(夫ジョンの弟夫婦とレストランで口論しているし)、観ていて「こんな奥さんだったら自分の命に代えてでも助けてあげたくなるよねー」と共感しにくい。終盤もあんな状況で車のドアを開けたりするし。何でこんな脚色をしたんだろう。脚色といえば、人情派デカのキャラも説明過多な印象。
そんなこんなで134分。ポール・ハギスらしからぬ冗長なリメイクという感じで、何とも残念な出来でございました。
さてオリジナル版の音楽はクラウス・バデルトでしたが、リメイク版はダニー・エルフマン。ハギス監督作でこの内容だったら、『クラッシュ』(04)、『告発のとき』(07)で組んだマーク・アイシャムでもイケそうだと思ったので、この人選はちと意外。
エルフマンがスコアを作曲するという事で、『プルーフ・オブ・ライフ』(00)とか『キングダム 見えざる敵』(07)のようにパーカッションをドコドコ鳴らすのかと思いましたが、予想外に抑制の利いた静かな音楽。エルフマン曰く「大規模なーケストラを使わない」「ピアノ主体のスコア」との事(ライナーノーツより)。8分20秒の大作”Breakout”がアクション・スコア風で聞き応えあります。
サントラにはMOBYの”Mistake”と”Be The One”が収録されてますが、本編では他にも”Sweet Dreams”と”Division”が使われていた模様。このMOBYの曲も悪くはないのですが、「この場面で歌モノ流す必要あるかな?」という場面で使われたりするものですから、イマイチ気分がノってこなかった。
オリジナル版のバデルトの音楽は派手さこそないものの、「音が自己主張し過ぎない引き算の音楽」という感じで、劇伴としてはかなり堅実な仕事をしていると思います。近年のバデルト作品の中でも上位に入る完成度かと。
最近バデルトの名前をメジャーな映画で見なくなって寂しい限り。
リモート・コントロール系の作曲家で、最も過小評価されてる人だと思う。