5/15にレーベルから『ケルティック・ロマンス』もリリースした事ですし、マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る意味も込めて、彼らが手掛けたサントラを不定期で紹介していこうと思います。
1回目は何にしようかなと思ったのですが、1度聴いたら忘れられない楽曲の強烈なインパクトと、アトム・エゴヤンとマイケル・ダナの名前を一躍有名にした作品という事で、1994年の映画『エキゾチカ』(94)にさせて頂きました。
いかがわしい感じのナイトクラブ「エキゾチカ」に集う人々(ワケあり国税調査官、希少動物の密輸に関与しているペットショップのオーナー、ロリータ系ストリップ・ダンサー、ネクラそうなクラブDJ)の「何の接点もなさそうで、実は奇妙な線で繋がっていた」人間模様を描いたミステリードラマとでも申しましょうか。そこはかとなくエロティックで、陰鬱で、救いがあるのかないのかよく分からない内容は、いかにもエゴヤン映画といった感じ。
ダンサー役のミア・カーシュナーは『24 -TWENTY FOUR-』の女テロリスト・マンディ役で有名。共演はブルース・グリーンウッド、イライアス・コティーズ、ドン・マッケラーとこれまた胡散臭い面々。後にエゴヤン監督の『スウィート ヒアアフター』(97)で主演級の役を演じるサラ・ポーリーが脇役で出てます。
ここでのマイケル・ダナの音楽は、「エキゾチカ」というタイトル通りの異国情緒溢れるサウンド。特にインド・中東音楽へのアプローチが顕著で、シェナイ、サーランギー、ダラブッカ、ウードといった楽器を使ってます。
聞くところによると、マイケルはインドでのレコーディングを希望していたものの予算が下りず、「それなら自費で行くからいいよ」と自腹でボンベイまで行って、民族楽器のパートの録音をしてきたそうです。彼はインド音楽には相当こだわりがあるようで、去年『ケルティック・ロマンス』の契約書を送った時も「明日から10日ほどインドにレコーディングへ行ってくるから、帰ってきてから内容に目を通すね」と言ってました。たぶん『Life of Pi』(12)のスコア録音だったと思われます。
サントラには「オリジナル・スコア(劇伴)」と「ナイトクラブでかかっている音楽」の2種類が収録されていますが、いずれもマイケルが書き下ろしたもの。スコアの方はシェナイで奏でられる気怠ーーい旋律が印象的な「ミニマル・エスノ・スコア」といった感じですが、注目すべきはナイトクラブのBGM。アラビックなメロディーや歌唱をテクノビートの上で演奏させた、これまた気怠くて、妖しくて、トリップ感のあるクラブミュージックを聞かせてくれています。こんな曲でストリップ・ダンスなんかされた日には、そりゃもう妖しさ満点なわけで、この映画の国税調査官みたいにイケナイ気分にもなってくるってもんです。
個人的には「これを聴かずしてマイケル・ダナの音楽は語れない」という感じの名盤ではないかと思っています。後の『カーマ・スートラ 愛の教科書』(96)、『8mm』(99)などのスコアの原点はここにある、と僕は解釈しています。熱帯夜に聴きたいアルバムですね。
サントラは既に廃盤ですが、時々中古CDショップで見かけるので、興味のある方は根気よく探してみて下さい。ちなみに僕はアルバム3曲目のダンスビート曲”Dilko Tamay Huai”が一番好きです。5曲目の”Pagan Song”もエキゾティック&エロティックでいい感じですが。