『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、
マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。
今回はマイケルの作品から『ニュースの天才』(03)をご紹介します。
アメリカの由緒ある(らしい)政治雑誌『ニュー・リパブリック』の若手人気記者スティーヴン・グラス(ヘイデン・クリステンセン)が、
過去複数回に渡って記事を捏造していたという実話を元にした映画。
ヘイデンは「救いようのない嘘つきなのに、人当たりが良くてイケメンなのでつい周りもダマされて甘やかしてしまう」という、
同性からするとかなりイヤな男を好演。
『スター・ウォーズ』のep2と3でラジー賞を受賞してしまったヘイデンですが、
本作ではその汚名返上を果たしております。
この人いい役者だと思うんだけどなぁ。『アウェイク』(07)もよかったし。
ちなみに雑誌編集長のチャックを演じたピーター・サースガードは、
この映画でインディペンデント・スピリット賞とゴールデン・グローブ賞の助演男優賞の候補になり、
全米批評家協会賞で同賞を受賞しました。
相変わらず堅実な芝居をしてます。
さて本作の音楽についてなのですが、
サントラ盤のブックレットにビリー・レイ監督が寄稿したライナーノーツが載っておりまして、
まずこの内容が結構スゴイ。
何しろ書き出しが「マイケル・ダナは私をマヌケ野郎だと思った事だろう」ですから。
何があったかと言いますと、
音楽の方向性を巡ってマイケルとレイの間でかなりモメたらしいのです。
レイはこれが初監督作でテンパってたうえに、
スケジュールが押していてイライラしていたようで、
スコアの書き直しを要求した時、
マイケルさんに「この仕事から降りるか、曲を書き直すかどっちか選んでくれ」みたいなキツイ言い方をしてしまったそうです。
(ヒドい…)
さすがにレイ自身も言い過ぎたと思ったようなのですが、
マイケルさんはそれに怒る事もなく、
1週間後には文句のつけようがないほど素晴らしい音楽を作り上げたそうで、
ライナーノーツも「マイケルの音楽最高!」みたいな言葉で締めくくってます。
果たしてその仕上がりはというと、
ピアノとガムラン風の澄んだ金属音の切ない響き、
ミニマリスティックなメインテーマのメロディーなど、
実にマイケル・ダナ的な「悩める者の心に寄り添う、切なくも優しい音楽」という印象。
虚言癖のあるスティーヴンを「悪」と断罪せず、
「これはこれで可哀想な奴なんですよ」とでも言っているかのような、
ある種のシンパシーを感じさせる雰囲気をうまく演出しています。
サントラの聴きどころとしては、
“TNR”や”Forbes.com”などの打ち込みのリズムを使った、
ややモダンなスコアがいい感じです。
マイケル・ダナ流ポップ・インストゥルメンタルといった感じの、
“軽め”のサウンドが楽しめます。
ひとつ残念なのが、サントラ盤のプレイタイムが23分強しかない事。
スコア13曲で23分強、
それでいてアルバム価格は普通の輸入盤とほぼ同じくらい(1,800円前後)だから、
コスパ的にはあまりよろしくなかった記憶があります。
まぁ僕はマイケル・ダナの音楽を愛してやまない人間なので、
それでも買っちゃいましたけど。
ちなみにマイケルにキツイ言葉を浴びせたビリー・レイ監督ですが、
後に二人は『アメリカを売った男』(07)でもタッグを組む事になります。
自分の無茶な要求にもキレずに、
クオリティの高いスコアを仕上げたマイケルさんの仕事ぶりに感服したのでしょう。
本作のサントラ盤に長文のライナーノーツを寄稿したのも、
「あの時はいろいろキツイこと言っちゃってゴメンね」
…という感じのレイからの意思表示だったのかもしれないなーと思っています。
嗚呼、映画音楽家はつらいよ。