マイケル・ダナ名作選 / 秘密のかけら -Where The Truth Lies- (2005)

where the truth lies

『ケルティック・ロマンス』のアーティスト、マイケル・ダナ&ジェフ・ダナのフィルモグラフィーを振り返る不定期連載企画。

今回はマイケルの作品から、盟友アトム・エゴヤン監督の『秘密のかけら』(05)をご紹介します。

舞台は1972年のLA。新進気鋭の女性ジャーナリスト・カレン(アリソン・ローマン)が、50年代に絶大な人気を誇ったスタンダップ・コメディアン二人組「ラニー&ヴィンス」の伝記を執筆する過程で、彼らが関与したとされる女子大生殺人事件の真相に迫っていくエロティック・サスペンス。

セクシャルな一面ばかりが強調されている作品ですが(まぁ実際キワドイ描写が多いけど)、映画の終盤まで真犯人が分からないトリッキーな物語構成とか、ソフトフォーカスをかけて50年代ハリウッドをセクシャル&きらびやかに再現した映像とか、「酒・ドラッグ・女・マフィア」というショウビズ界の裏の顔を赤裸々に綴ったストーリーとか、なかなか見応えのある内容でした。「大人のためのサスペンス・ミステリー」という表現がぴったりかと。ネットリしたエロティシズムや暴力描写の見せ方に、どことなくブライアン・デ・パルマの初期作品を彷彿とさせるものもありました(ナイトクラブのシーンでは長回しの映像もあったし)。

キャストではやはりラニー&ヴィンスを演じたケヴィン・ベーコンとコリン・ファースが素晴らしい。ラニーは「傍若無人で軽薄なアメリカ男(ボケ役)」、ヴィンスは「シニカルで紳士的なイギリス男(ツッコミ役)」という役回り。ベーコンは『フットルース』(85)を彷彿とさせる軽快なステップや歌まで披露してくれます。兄弟でベーコン・ブラザースというバンドをやっているだけあって、歌もサマになってます。

それにしても、やっぱりセクシャルな場面の描写は結構ドキドキものでした。特に「不思議の国のアリス」のコスプレをしたお姉ちゃんのXXシーンとか、何だか観ていてとても背徳的な気分になってきます。DVD特典の監督インタビューで「XXシーンはなかなか(撮っていて)楽しかった。”とても”と言うべきかな?」とか言ってたから、あれはエゴヤンの趣味なのだと思います。

本作の音楽についても映像特典でエゴヤンが熱く語っていて、「50年代はアート・ブレイキーなどのジャズと、”ブルースとロックの中間形態”であるルイ・プリマ。70年代はサンタナやマハビシュヌ・オーケストラの音楽を使った」との事。で、スコアに関しては「ロキシー・ミュージックなども参考にした。ギターの使い方が面白いんだ」と語ってます。時代的にはまだブライアン・イーノがバンドにいて、「ヘンな音」を出していた頃という事になるでしょう。

そんなわけで、エゴヤンの要求した音を実現させるため、マイケル・ダナも自らギター、エレクトリック・ピアノ、オルガンを弾いてます。ギターのなまめかしい持続音と、オルガンの気だるい音色が実にエロティック。重くうねるベースギターとミュート・トランペットのソロもそこはかとなくエッチな感じ。マイケル・ダナの作品史上、最もセクシーなスコアと言っても過言ではないかと。中毒性アリです。

ちなみにスコア盤にはケヴィン・ベーコンが歌うジャズナンバー”There’ll be No Next Time”が収録されてます(コリン・ファースは相づちを打つだけ)。マイケル・ダナも1曲だけビッグバンド・ジャズ曲”Palace Del Sol”を書き下ろしているのが個人的には興味深いところ。

本盤を聞いた感じだと、マイケル・ダナはブライアン・デ・パルマの映画とも相性がいいのではないかと思いました。今度デ・パルマがエロティック・スリラーを撮る時には、音楽担当に是非マイケル・ダナを指名してもらいたいところです。

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