『THE GREY 凍える太陽』(11)はリドリー&トニー・スコットの製作会社「スコット・フリー」の作品という事で、音楽担当は『プロヴァンスの贈りもの』(06)以来リドリーお気に入りの作曲家となったマーク・ストレイテンフェルドが起用される事になりました。
ジョー・カーナハン自身はクリフ・マルチネス、クリント・マンセル、アラン・シルヴェストリと毎回違う作曲家と組んでいるので、スコアにはそれほどこだわりがないのか、あえていろんな作曲家と仕事をしてみたいと思っているのか、まぁそのどちらかなのでしょう。
もともとあまり自己主張が強くない音楽を書き下ろす人でしたが、今回は題材がこんな感じなので、ストレイテンフェルドの作風が功を奏しているというか、音数やメロディーをぐっと抑えた虚無感と寂寥感を感じさせるスコアを作り上げています。悲壮感を漂わせたテーマ曲”Writing The Letter”も結構耳に残るメロディーではないかと。「これからヤバい事が起こるぜぇ」という危うい空気感をバスサックスの音色で表現している点もなかなか手が込んでます。
というわけで、手堅い仕事をしているストレイテンフェルドではあるのですが、ハンス・ジマーのもとで下積みをした作曲家でありながら、個人的にはリモート・コントロール色が極めて薄い音楽を作る人という印象があります。
『プロヴァンスの贈りもの』とか『ワールド・オブ・ライズ』(08)あたりまではRC作品ではおなじみのブルース・フォーラーがオーケストレーターを務めていましたが、『THE GREY』や『プロメテウス』(12)はオーケストレーターも別な人になってるし、『THE GREY』に関して言えば、チェリストもマーティン・ティルマンではなくキャロライン・デイルを起用しているし、ヴァイオリニストもヒュー・マーシュやノア・ソロタじゃないし、ミキシングもアラン・マイヤーソンとは違う人が担当してる。追加音楽を他の仲間に書かせたりもしていないみたいだし、他のRC出身者とは創作スタイルにもかなり違いがある。
ここ6年くらいでこれだけ大作映画の音楽を手掛けているのに、未だにリドリー・スコット監督作・プロデュース作以外の映画の音楽を担当する機会がないというのも何だか気になる。いろいろ大人の事情があったりするのかしらん、と余計な心配をしてしまう。本当のところはどうだか分からないけど、マーク・ストレイテンフェルドはまだまだ謎の多い作曲家です。
ちなみに『THE GREY』のサントラですが、映画本編でも音楽が流れる時間は少なかったので、16曲35分強という収録内容です。音楽のクオリティは高水準ですが、収録時間の短さは否定出来ませんので、そのへんは皆さんの自己判断でアルバムを購入するかどうか決めて頂ければと思います。