ジェイソン・ボーン・シリーズの立役者を4人挙げるとするならば、
主演のマット・デイモン、
1作目の監督・シリーズ3作の製作総指揮のダグ・リーマン、
2・3作目の監督のポール・グリーングラス、
そして音楽のジョン・パウエルという事になるでしょう。
この4人が全員プロジェクトから離脱して、『ボーン・レガシー』(12)の音楽は一体誰が担当する事になるのかと思ったら、ジェームズ・ニュートン・ハワードが手掛ける事になりました。
監督のトニー・ギルロイとは『フィクサー』(07)と『デュプリシティ』(09)で仕事しているし、プロデューサーのフランク・マーシャルとも一連のM・ナイト・シャマラン作品で交流があるので、この人選は割とすんなり決まったのではないかと。
さてジェイソン・ボーン・シリーズの音楽と言えば、サンバの如く豪快にパーカッションを鳴らしまくるスピード感&グルーヴ感抜群のサウンドが魅力だったわけですが、果たしてパウエルが生み出した”ジェイソン・ボーン・サウンド”をJNHがどう料理するのか。似たようなノリのスコアを書くのか、あるいはパウエルとは違う手法で攻めてくるのか、個人的には興味津々でございました。
先に結論から申しますと、前者の「似たようなノリのスコア」でした。
JNHの仕事で言えば『ソルト』(10)のノリに近いサウンドかなー。
JNHなりに随所でドコドコと打楽器を鳴らして、「ジェイソン・ボーン・シリーズの空気感」を損なわないような音楽を作ってます。パウエルに比べるとライヴ・パーカッションよりも打ち込みの比率が大きいような印象ですが、スピード感はパウエルのスコアにはやや劣るといった感じです。ま、『ボーン・アルティメイタム』(07)のスコアの疾走感はハンパじゃなかったので、あれと比べるのは酷かもしれませんが…。『レガシー』のスコアも”Magsaysay Suite”とか結構頑張ってます。
JNHが意識したのか、あるいは「そういう曲を書いてくれ」と言われたのかは分かりませんが、オーボエソロの旋律(サントラ1曲目”Legacy”のイントロなど)がパウエルの書いたスコアのメロディーに似た雰囲気を持ってますね。
ところでこのシリーズ、テーマソングの”Extreme Ways”が毎回ラストの絶妙なタイミングでイントロが流れてきて、カッコよく映画を締めてくれるのですが、今回は何だか締まりのない場面でイントロが流れてきてガクッと来てしまいました。いいのかあれで。エンドクレジットのグリッド線がウネウネ動き回るおなじみの背景(…という表現でいいのだろうか?)も今回はナシ。
パウエルのスコアに比べると、インパクトに欠けるのは致し方ありませんが、JNHらしい「引き算の美学」に裏打ちされた、手堅い作りのアクション・スコアです。「特徴がないのが特徴」というジム・カスタムみたいなスコアと言えるでしょう(またこの表現を使ってしまった…)。